ドラッカーが日本に遺した「希望のメッセージ」 「人口問題」は社会的イノベーションの大好機

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田中私はドラッカーから4つのメッセージをくみ取れると思っています。今の議論をまとめるような形になりますが、1つは社会的イノベーション、コストと利潤の関係、成功のパラドックス、そして人口問題。それらについて少しずつ申し上げます。

先ほどの小島先生のお話のなかにシュンペーターについてありましたが、彼は「新結合」という概念を挙げて、既存のモノやサービスを組み替えて新たな結びつきを行うことがイノベーションだと言っています。われわれはイノベーションを「技術革新」と教えられたので生産物の革新をイメージしますが、組織や流通全体、社会システム全体のイノベーションが大事です。

DXの時代と言われますが、DXを技術革新ととらえていては何も始まりません。システムが経営を変えるという一方向の議論ではなく、双方向で、経営がどのようにシステムにアプローチしていくかという発想も必要です。日本はDXの時代に新しい精神でやっていかなくてはなりませんが、じつは日本はそういう精神をもっています。密教に「従果向因」という考え方があって、「結果に従って原因にむかう」というものです。

ドラッカーは、「目標とは、未来をつくるために資源とエネルギーを動員するためのものである」と語っています。資源とエネルギーを動員して未来をつくるのではなく、目標に向けて資源とエネルギーを動員するのだということからすれば、日本のメンタリティーはしっかりあります。「従果向因」の精神で、すばらしい結果をイメージしながら、経営者がきちんとその手段を伝達していく。そういうつながりになっていけばいいのではないかと思います。

利益は目的ではない

田中ドラッカーは「利益は目的ではない」と言っていますね。「利益とは、マーケティング、イノベーション、生産性の向上の結果手にするものだ」と言っています。そこに着眼すると、日本はこの30年、コストカットによってGDPを手に入れたのであって、すべてとは言いませんが生産性とイノベーションの結果で手にしたわけでは必ずしもない。

ドラッカーは、「企業とは株主の利益を最大化すべきものという定義はおかしい」と言っています。短期的な視点からのみマネジメントされるようになると、富を創造する能力は毀損され、業績は悪化していく。長期的な成果は、短期的な目標と長期的な目標を均衡させることで得られると言っています。ここは日本的な発想に近いのではないかと思いますので、日本の将来に期待したい。

田中琢二/元IMF日本政府代表理事。著書に『イギリス政治システムの大原則』(第一法規)がある(撮影:梅谷秀司)

それから、バブル崩壊前には、基本的に企業部門は資金需要が強く、貯蓄を上回る投資をしていて赤字だったのですが、今は政府部門が赤字で企業部門が超黒字です。こういうところも含めて、人件費などのコストカットではなくて、人を資産にするという考え方のもとにどんどん投資していくという発想でいけば、新しい展開も生まれるのではないでしょうか。そういう意識が日本にも生まれつつあるので、そこに僕は非常に期待したい。

成功のパラドックスの話では、経営学では「両利きの経営」が提唱されています。要するに、今までの既存の技術を深めていく知の深化と、新しいものを求めていく知の探索。この両利きの経営のバランスが大事だと言っているときに、日本は既存の技術の成功があるがために、どんどん知の深化に行ってしまい知の探索とのバランスを欠いている。

このあたりをもう一度認識していく必要があるのだろうなと思います。そのためにこそ、ドラッカー先生は、全体のバランスを考えられるレベルの高いリベラルアーツが必要だとおっしゃっているのではないかなと思います。

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