「生成AIでゲームキャラと対話」が困難な意外事情 スクエニの「ポートピア」デモでは雑談機能削除

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「ポートピア連続殺人事件」を題材とした技術デモ。4月、PCゲーム配信プラットフォームのSteam上で無料公開した際には、キャラクターとの雑談機能をあえて搭載しなかった(画像:スクウェア・エニックスCEDEC+KYUSHU2022発表資料)
対話型AIツール、ChatGPTなどに用いられる生成AIの技術を事業で活用する動きが広がっている。ただ、技術的には活用の余地があっても、実際に販売する製品やサービスに搭載するとなるとさまざまな課題が立ちはだかってくる場合がある。
ゲーム会社大手のスクウェア・エニックスは、4月24日にアドベンチャーゲーム『ポートピア連続殺人事件』でAI技術を体験できるデモを無料で公開した。1983年に発売されたコマンド入力式のゲームをベースに、ChatGPTにも使われる自然言語処理(NLP)技術を搭載したものだ。
ただ、実装した技術はユーザーの打ち込んだ文章を理解する自然言語理解で、ゲーム内のキャラクターがユーザーと自由に雑談する機能はあえて搭載せずにリリースされた。対話型AIのような会話を期待していたユーザーからは、落胆の声もある。
ゲームでの生成AIの活用には、どんな課題があるのか。ゲームAI研究の第一人者で、スクウェア・エニックスAI部ジェネラル・マネージャーの三宅陽一郎氏に聞いた。

「そのまま活用」はハイリスク

ーーゲーム業界における生成AI活用の可能性について、どう見ていますか。

生成AIは長期的に、ゲーム産業に大きな変革をもたらすだろう。技術的にも、ゲームに機能を組み込むこと自体は難しくない。

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ただあくまで足元の状況を見ると、なかなか一筋縄ではいかない。今世の中で流行している生成AIをそのまま活用するのはリスクがあるのだ。

まず挙げられるのが、生成AIによる著作権侵害のリスクだ。

ゲームのグラフィックを作るのに画像生成AIを活用するとしよう。すでにある画像生成AIは、インターネット上の画像データを自動で大量に集めてAIの学習に使っている。すると、生成された画像は何らかの著作物を侵害している可能性がある。いくつかの画像生成ソフトを試したが実際にそのようなケースが多かった。

もしAIが生成した著作権侵害の画像をゲームに使ってしまったら、仮に法的責任を問われない場合でも、企業倫理上大きな問題となる。

また、世界観を統一することの難しさもある。ユーザーがゲームの世界に没入するためには、世界観や色調を作り込み、同じテイストで揃えることが非常に重要だ。

AIに「カエルの絵を描いてください」「犬の絵を描いてください」と個々に画像生成させるのは簡単だが、そのカエルと犬の絵を同じ世界観でそろえようとすると、統一感を出すのに苦労する。

実際に製品に使えるレベルまでブラッシュアップするためには、最終的に人間が全体を修正する作業が必要になる。これから生成AIがどれだけ進化しても、この事実はあまり変わらないだろう。

ーー結局、人の手が必要になると。

さらに、一言で生成AIを利用するといっても、生成したいものによって品質にバラツキがある。2Dの絵であれば(AIが学習に使う)画像がインターネット上にたくさんあるので、かなりの品質が期待できる。一方、ゲームを作るうえで必要な3Dデータやモーション・データは、共有されているデータがたくさんあるわけではなく、高品質な生成が難しい。

現実的な活用法としては、人間のアーティストがまずコンテンツを制作し、そのバリエーションを生成AIに作らせて、もう一度人間がレタッチして使うというかたちだ。

その点、アーティストをたくさん抱える企業にとっては、生成AIのインパクトは相対的に小さくなる。AIが人の代替となるのではなく、AIによってアーティストをエンハンス(助力)する仕組みが最も重要だ。

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