しかし妻も妻で負けていない。嫌なことは嫌だと言う性格だったらしい。例えば主人公は休日、母を連れてピクニックをするのが昔からの習慣だった。結婚後、これに妻も誘ったところ、「お義母さんと一緒なら、嫌です」とぴしゃりと言われたという。
……どこまでフィクションなのかはわからないが、鴎外、毎日こういうバトル見てたんだろうな、と思わせる描写だ。「奧さんは嫌な事はなさらぬ。いかなる場合にもなさらぬ。何事をも努めて、勉強してするといふことはない。己に克つといふことが微塵程もない」あたりの言葉には、なんだかやけに力がこもっているように見えてしまう。
子どもの前で「あんな人」呼ばわり
実際、鴎外の2人目の妻は、この小説そのまんまの、美人なお嬢様育ちの女性だったらしい。『半日』の「奥さん」は甘やかされたお嬢さんだったという旨がよく綴られるが、それはもう鴎外の妻そのものだったという。
『半日』は、主人公から見た奥さんへの愚痴が綴られ続ける。例えば義母のことを「あんな人」と言って、子どもにも「あんな人のところには遊びに行くんじゃありません」と述べている。
ちなみに主人公は「おいおい、子どもの前で『あんな人』呼ばわりは」とたしなめるのだが、妻は「あんな人だからあんな人と言うのだわ」と即座に返すのだった。嫁、強い。そして義母のことを「まるであなたの女房気取り」と悪口を言うのだった。
主人公は妻にもっと芸術的になってほしいと思うのだが、まったく芸術にも興味を持たない。自然に対しても興味は持たない。
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