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エリート森鴎外も苦悩「嫁姑問題」明治の壮絶実態 小説「半日」に凝縮されている人間らしさ

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しかし妻も妻で負けていない。嫌なことは嫌だと言う性格だったらしい。例えば主人公は休日、母を連れてピクニックをするのが昔からの習慣だった。結婚後、これに妻も誘ったところ、「お義母さんと一緒なら、嫌です」とぴしゃりと言われたという。

「どうもあなたのおかあ樣と一しよに徃くのは嫌ですから、どうぞわたしに嫌な事をさせないやうにして下さい」と云つた。これを始として、奧さんの不平を鳴す時には、いつでも此「嫌な事をさせないやうにして下さい」が、refrain の如くに繰返されるのである。奧さんは嫌な事はなさらぬ。いかなる場合にもなさらぬ。何事をも努めて、勉強してするといふことはない。己に克つといふことが微塵程もない。これが大審院長であつたお父さまの甘やかしたお孃さん時代の記念(かたみ)である。(『半日』)

……どこまでフィクションなのかはわからないが、鴎外、毎日こういうバトル見てたんだろうな、と思わせる描写だ。「奧さんは嫌な事はなさらぬ。いかなる場合にもなさらぬ。何事をも努めて、勉強してするといふことはない。己に克つといふことが微塵程もない」あたりの言葉には、なんだかやけに力がこもっているように見えてしまう。

子どもの前で「あんな人」呼ばわり

実際、鴎外の2人目の妻は、この小説そのまんまの、美人なお嬢様育ちの女性だったらしい。『半日』の「奥さん」は甘やかされたお嬢さんだったという旨がよく綴られるが、それはもう鴎外の妻そのものだったという。

『半日』は、主人公から見た奥さんへの愚痴が綴られ続ける。例えば義母のことを「あんな人」と言って、子どもにも「あんな人のところには遊びに行くんじゃありません」と述べている。

ちなみに主人公は「おいおい、子どもの前で『あんな人』呼ばわりは」とたしなめるのだが、妻は「あんな人だからあんな人と言うのだわ」と即座に返すのだった。嫁、強い。そして義母のことを「まるであなたの女房気取り」と悪口を言うのだった。

主人公は妻にもっと芸術的になってほしいと思うのだが、まったく芸術にも興味を持たない。自然に対しても興味は持たない。

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【そんな妻に対して、主人公はどう思っていた?】

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