40年の歴史「タモリ倶楽部」終了が意味するもの オタク文化に繋がる趣味の教養化と知的笑い

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ただし、深掘りの仕方、その味付けは時代とともに変化した。1980年代から1990年代には、サブカルチャーのテイストが強かった。メインストリームから外れたところにある文化に光を当てる。例えば廃盤になってしまった隠れた名曲を紹介する「廃盤アワー」などはそうだろう。また、街中にある用途不明の建造物(全面タイル貼りの「タイルの家」など)を鑑賞する「東京トワイライトゾーン」も人気コーナーになった。

ところが2000年代以降になると、時代的に重心がサブカルチャーからオタク文化へと移っていく。「メイン」「サブ」といった文化の階層構造よりも、個人ごとの趣味嗜好を等しく重視するようになっていくのである。それとともに「タモリ倶楽部」の企画の傾向も変化した。

従来、バラエティの企画としては想像できなかった工具や重機などを特集したのも「タモリ倶楽部」が先駆だったと言えるだろうが、代表的なのはやはり鉄道関連の企画だろう。タモリを中心に「タモリ電車クラブ」という電車好き有名人のクラブが生まれ、2000年代あたりから電車に関する企画が定番になっていった。ほかにも地図や坂道など、タモリ自身の趣味をベースにした企画が増えていく。

同時に、オタク化する時代のなかで「元祖オタク」とも言うべき存在としてタモリに対する世間の尊敬の念も高まった。2008年にはNHKで古地図を使った街歩き番組「ブラタモリ」も始まり、専門家も舌を巻くようなタモリの博識さがいっそう際立つようになる。リスペクトされる「趣味人」としてのタモリの確立である。

「知的笑い」が凝縮された「空耳アワー」

だが「芸人」としてのタモリの真骨頂は、また別のところにあった。1970年代後半、「恐怖の密室芸人」と称されたタモリの芸の核には「知的笑い」があった。声色ではなくその人が言いそうなことをアドリブで真似る「思想物真似」、でたらめ外国語を駆使した「四カ国親善麻雀」、さらには日本語もどきの「ハナモゲラ語」など、それらはパロディやナンセンスをベースにしたものだった。

「タモリ倶楽部」にもそのエッセンスは受け継がれた。特に初期は番組の構成作家だった景山民夫の存在もあり、その傾向は顕著だった。「男と女のメロドラマ 愛のさざなみ」もその一つ。タモリ演じる義一と中村れい子演じるれい子が毎回違うシチュエーションで「運命の再会」をするミニドラマシリーズ。全体のストーリー展開などは二の次で、メロドラマならではの情緒たっぷりな再会シーンをパロディにして面白がろうというスタンスだった。

「SOUB TRAIN」というコーナーもあった。こちらは、アメリカの人気音楽番組「SOUL TRAIN」のパロディ。タイトルは言うまでもなく「総武線」のもじりである。タモリがファンキーな司会役に扮し、ディスコ風のセットで少し前に流行ったダンスステップを出場者が披露するという内容だった。

そして、なんといってもパロディやナンセンスのエッセンスが凝縮されていたのが、1992年からレギュラー化され、番組の代名詞的コーナーになった「空耳アワー」である。

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