技能実習制度「廃止」の議論に喜べない2つの理由 有識者会議の報告書案が残した「人材育成」の盾

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現行の技能実習制度は、外国人実習生が日本で「実習」をする最長5年の間、原則として転職(転籍)を認めていない。制度には「外国人の育成による国際貢献」という建前があり、育成のためには、実習生は1つの受け入れ先で長く働くことが望ましいという理屈からだ。

今回の報告書案では、転職の制限を一部緩和する方向性が示されたが、あくまで「人材育成を制度趣旨とすることに由来する転籍制限は残す」と前置きしている。

技能実習制度に関する有識者会議の資料
中間報告書案では、新制度においても「人材育成に由来する転籍制限は残す」との考え方が示された(記者撮影)

しかしこの「育成」を理由とする転職の制限が、人手不足に悩む企業などにより、実習生を縛り付ける口実として悪用されているのが実態だ。

転職ができないために、賃金不払いや長時間労働などの不当な扱いに耐えているケースは後を絶たない。それでも多くの実習生は、雇い主とのトラブルを避けるため、不当な扱いを直接訴えない傾向にある。雇い主の判断で「実習」が継続できなくなれば、在留資格を失い帰国しなければならないためだ。そもそも日本語能力が乏しい実習生は、他の日本人に相談することも難しい。

実習生の中には、母国の送り出し機関へ支払う費用として50~100万円の「借金」を背負って来日した人もいる。簡単に帰国できない状況下で、過酷な労働環境にある実習先から「失踪」という形で逃れ、不法滞在につながるケースもある。

「強制労働の一形態」(鈴木教授)とまで言われる転職の制限がある限り、制度自体が人権侵害や労働関係法違反につながるとして、国内の支援団体や国連機関などから批判され続けてきた。

「妊娠したら解雇」が後を絶たない

冒頭のような実習生の孤立出産の問題も、多くは似たような背景から生じている。

ベトナム人技能実習生を支援するNPO法人「日越ともいき支援会」では2022年、28人の妊娠した技能実習生から解雇に関する相談を受け、雇用主と雇用継続の交渉を行った。同法人の吉水慈豊代表は「妊娠をした技能実習生を解雇しようとする雇用主は多い」と指摘する。

技能実習生は法律上労働者であり、本来は産休や育休が認められる存在だ。そもそも妊娠を理由とした解雇は法律違反に当たる。

入管庁は2019年から注意喚起として、実習生の受け入れ企業などに対し、男女雇用機会均等法や、実習生の私生活の制限を禁じた技能実習法の遵守を呼びかけている。

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