技能実習制度「廃止」の議論に喜べない2つの理由 有識者会議の報告書案が残した「人材育成」の盾

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技能実習制度に関する有識者会議の資料
中間報告書のたたき台で強調されていた「廃止」の方向性は、その後に示された中間報告書案ではややトーンダウンした(記者撮影)

4月18日、広島県東広島市の空き地で乳児の遺体が見つかった。乳児の母親は19歳のベトナム人女性だった。

技能実習生だったというこの女性は、4月20日に死体遺棄容疑で逮捕された。一部報道によれば「妊娠が知られると帰国させられると思った」などと話しているという。

2020年には熊本で、同じく技能実習生だったベトナム人女性が死産した双子の遺体を遺棄したとして、死体遺棄罪に問われた。遺体を自宅の段ボールに入れていた行為が「遺棄」にあたるかが争点となり、1審と2審では執行猶予付きの有罪となったが、2023年3月の最高裁判所判決で逆転無罪となった。

技能実習生をめぐっては、これまでも多くの事件やトラブルが相次いできた。その根因と言える「技能実習制度」が今、大きな転換点に差し掛かっている。

名ばかりの「廃止」になる?

「技能実習制度を廃止し、新たな制度の創設を検討すべきである」――。

4月10日に法務省が開催した、技能実習制度と特定技能制度の見直しを検討する有識者会議。そこで示された中間報告書のたたき台で、制度の「廃止」が提言されたことが各メディアで大きく報じられた。

技能実習制度は、国際貢献として途上国の外国人を受け入れ、技能を移転することを目的として1993年に創設された。しかし制度設計の問題から、かねて人権侵害や労働関係法違反の温床となっているとの指摘が国内外からなされていた。そうした背景から、4月28日に出された中間報告書案では、制度を「国際的にも理解が得られるものとなるよう」検討する必要があると明記された。

制度の廃止は、労働環境の改善に向けて一歩前進したとも受け取れる。ところが技能実習生の支援者らの間では、「名ばかりの廃止になるのではないか」との冷めた見方が広がっている。

「『人材育成』という言葉がなくならないと、人権侵害の構造はなくならない」。そう話すのは、国士舘大学教授で、NPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」共同代表理事の鈴木江理子氏だ。

中間報告書案では「人材確保と人材育成を目的とする新たな制度」を検討すべきと提言している。日本の技術を学ぼうと来日した外国人の育成に加えて、これまで明示されなかった国内の労働力不足対策という2つの目的を持たせる方向だ。

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