不登校の原因を親に聞かれた彼女の苦しい胸の内 学校に行けない理由が「わからない」子への対処

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登山を想像してみてください。高い山であれば、まず、べースキャンプを設営し、さらに2次キャンプ、3次キャンプを張りながら、頂上を目指します。

上に行くにつれて空気は薄く寒く食べ物もなくなってきて、このまま登山を続けたらどうなるんだろうと不安になってきます。途中で隊員の誰かが凍傷やケガで動けなくなると、 2次キャンプ、べースキャンプへと戻ります。そこで体力の回復を図り、再びトライするわけです。

下山する勇気

不登校の回復のプロセスを考えるとき、多くの人は再び山に登りはじめるときこそが「回復に向かうイメージ」だと考えるのではないでしようか。それはわかりやすい解釈ですが、登山には「下山する勇気」という言葉があります。身の安全を図るために、いったん登山を休止して、2次キャンプやべースキャンプに戻る。それも回復のプロセスのひとつなのです。

不登校の歩き方
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「苦しい」「助けて」→「このままじやダメになってしまう」→だから、学校を休んで、家(1次キャンプやベースキャンプ)で体力や心の回復を図る、というわけです。

それまで頑張って(無理をして)毎日登校していた子が、学校に行けなくなる、あるいはときどき休む、遅刻や早退が増えるといった、親からすれば困った事態も、そういうかたちでSOSを出せるようになったという意味で、回復に向かう一歩と考えられます。

少し元気になってくると、再び登っていくためのウォーミングアップを始めたり、登山の練習っぽいことをやりだしたり、いろいろな変化が起こってきます。このときはじめて親は「回復してきたぞ!」と喜ぶわけですが、すでに学校に行けなくなったときから回復の一歩は始まっています。

目の前でゴロゴロだらだら好き勝手なことをやっているわが子を見ていると、とてもそんなふうには思えないかもしれませんが、あとでふりかえってみると、「まさにあれは回復のプロセスだったんだ」と感じることができると思います。

荒井 裕司 登進研代表

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あらい ゆうじ / Yuji Arai

さくら国際高等学校学園長、登校拒否の子どもたちの進路を考える研究会(登進研)代表。高崎経済大学経済学部卒業。高校再受験の予備校設立、不登校の子どもたちのためのフリースクール設立後、1992年「東京国際学園高等部」(サポート校)を創立。長野県上田市に教育特区による広域通信制(単位制)高校「さくら国際高等学校」を創立。長年にわたり不登校の子どもたちの心と学びをサポートし、個性を育む教育を実践。

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小林 正幸 東京学芸大学名誉教授

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こばやし まさゆき / Masayuki Kobayashi

臨床心理士、公認心理師、学校心理士、日本カウンセリング学会認定カウンセラー、カウンセリング心理師および同スーパーバイザー。専門は教育臨床心理学。筑波大学大学院修士課程教育研究科終了。東京学芸大学名誉教授。「登進研相談室」カウンセラー

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