キャッシュレス、直葬時代にお寺は生き残れるか 「葬儀だけではもったいない」お寺でできること

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いま、仏教界に求められているのは、自分たちの行っている活動が仏教の教義に基づくものであるという説明である。

行動経済学者のアリエリーによれば、お金を失うことの「痛み」は支払い方によって変化するという。たとえば、プリペイド方式はコンビニなどで金額をあまり確かめず気軽に「ピッ」と支払ってしまう。クレジットカードは時間が経過してから他の支払いとあわせて銀行口座から引き落とされるので「出した感」は少ない。

実は、この出費の痛みは大乗仏教の教えと深い関係がある。そもそも布施とは、利他行を奨励する大乗仏教の重要な徳目であり、出費の痛みを喜びと感じることが肝要とされる。布施が喜捨ともいわれるゆえんである。

アリエリーによれば、最も痛みを伴う出費は現金ということなので、仏事に関連する金銭のやりとりを布施と定義づけるのであれば、それを現金に限るのは教義とも整合的な方法と思われる。

ただ、キャッシュレス決済を導入しようとする背景にはお寺側の事情もある。それは、賽銭箱に入れられた小銭を整理し、金融機関に持って行くために相当な手間がかかることに加え、2022年から郵便局が窓口での硬貨の預け入れに手数料をとるようになったことだ。たとえば、1万枚の1円玉を預け入れると11000円も手数料がかかるのである。

したがって、キャッシュレス決済は賽銭やお守りなど少額の布施に限定し、それ以外は現金という方式がより現実的なように思われる。

追善供養の意味するところ

葬儀は死者を見送る儀式である。したがって、それが持つ意味は、亡くなった人に対してではなく、見送る人たちに対して説明されなければならない。

仏式葬儀の根拠は、平安時代に源信という僧侶によって著された『往生要集』にある。同書の原典は中国で生まれた「十王信仰」にあるとされ、その内容は、死後、生前の行いが10人の王によって裁かれ、不道徳的な行いがあった場合は地獄行きになるというものである。

そして、死者が極楽に生まれ変わるためには、遺された人たちが念仏を唱え旅立つ人の罪を清める必要があると説かれている。

これがいまの仏式葬儀の宗教的な意味である。仏事のさいに、参列者が仏前で手を合わせ、「御霊前」を差し出すのは、死者に代わって善行を追加し、お供え物をする「追善供養」であり、死者が成仏できるようにという祈りなのである。

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