「地域コミュニティの社会関係資本が高い地域は低い地域に比べると、東日本大震災のような災害時の生存率も格段に高いことがわかっています。しかし今は、何かあったら誰かが助けてくれるようなライフライン的な人間関係が本当に希薄ですから、犬の存在がその問題解決の一助となるはずだと考えているのです」
菊水さん自身、アメリカのボストンに住んでいたとき、最初は知らないアジア人という目で見られて孤立していたそうだが、犬を飼ったおかげであっという間に地域住民のコミュニティに入れた経験があるという。
「今住んでいる町でも犬をきっかけに近所づきあいが生まれて、犬仲間もたくさんできて人間関係が豊かになりました。だから僕がやっている研究は、今まで飼った犬たちへの恩返しでもあります」
犬の存在がより重視される未来を期待して
今年1月29日、本の中にもたびたび登場する菊水さんの愛犬ジャスミンが亡くなった。筆者も実家で飼っていた愛犬のペットロスを経験したことがあるため、その喪失感は計り知れないと思うが、「死は生の一部ですから。その経験も大事なことだと思っています」と最後に語ってくれた。
「今の社会は死が日常から遠くなりすぎてしまったため、死に対する恐怖心が強まっています。そのため寿命を延ばすことばかりが注目されていて、幸せな生き方について議論されることはあまりありません。その点、犬や猫を最期まで飼って看取る人は、命の尊さについて考え、死を受け入れます。それが自分の生き方を考えるきっかけにもなるんですね。そういう意味でも、今の社会の問題は犬の存在によって改善できる部分がたくさんあると思っています」
人が犬に愛情を注げば、犬も飼い主に無条件の愛情を与えてくれる。その濃密なコミュニケーションによって生まれる幸福感は、一度飼い始めてからお別れの日がくるまで大抵は十年以上続く。夫婦でも親子でもそれほど長く心豊かにストレスなく過ごせる関係は少ないだろう。孤独が蔓延する社会で人々の心の空白を埋めるために、また人と人のつながりを取り戻すために、菊水さんの研究によって犬の存在がより重視される未来が訪れることを期待したい。
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