日本をよそに仁義なき保護主義に立ち返る欧米 新たな税制優遇競争の勃発で税収減の恐れ

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世界経済の歯車のイメージ図
産業囲い込みへの回帰(写真・PIXTA)

米中対立が経済面にも及び、デカップリング(分離)が進むなか、アメリカの保護主義的な政策が、欧州諸国を刺激し、EU(欧州連合)までもが加盟国企業をひいきするような展開となっている。

日本はどう対応するのか。

引き金となったのは、2022年8月に成立したアメリカのインフレ抑制法(Inflation Reduction Act)だった。ちょうどこの時期、先進国から途上国、さらには軽課税国・地域を含んだ140カ国・地域が、国際課税の新たなルールについて2021年10月に合意しており、国際的な税率引下げ競争はもう過去のものになるという雰囲気が支配していた。

ようやく合意に達したはずの国際課税ルール

この国際課税の新たなルールは、長い年月をかけて議論を積み重ねてきた(拙稿「パナマ文書で人為的な課税逃れは防げるか 国際的な課税制度確立を目指す動きが加速」)。国際的な税源侵食や租税回避を防ぐべく、BEPS(Base Erosion and Profit Shifting、税源浸食と利益移転:ベップス)包摂的枠組みにおいて、140カ国・地域が2つの柱による解決策に合意した。

2つの柱のうち、第1の柱は、これまでは製品やサービスが売買される市場国で価値が生み出されながらも、主として親会社が所在する国・地域で課税されたが、今後は価値に見合った課税権を市場国に配分できるよう、市場国で課税できる利益について国際課税原則を見直すことである。

第2の柱は、国際的に最低限の実効税率を15%と定めたうえで、それを下回る「軽課税国」における最低税率での課税を確保するとともに、親会社に対して子会社の税負担が最低税率に至るまで課税することを認めるものである。

特に、第2の柱が、国際的な最低法人税率を15%と定められた、と当時話題となった。これにより、軽課税国が15%未満の低い税率で課税したとしても、結果的に親会社の国で課税されるため、税率を引き下げる恩恵が得られなくなり、国際的な税率引き下げ競争はこれで終わる、と思われた。

ところが、アメリカで前掲のインフレ抑制法が成立したのだ。

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