他方、初期投資を経てうまく商用化できて、生産段階で利益が大きく上がれば、生産比例税額控除の恩恵が受けられる。それならば、当初は赤字のスタートアップ企業でも、生産が軌道に乗った段階で恩恵が受けられる。
このように、製品のライフサイクルやサプライチェーンを意識した税制措置となっている。インフレ抑制法では、こうした生産比例税額控除は、太陽光パネル、バイオ燃料、クリーン水素、排出量ゼロ以下の電力にも設けられている。
インフレ抑制法で設けられたこれらの措置が受けられるのは、アメリカ国内(自由貿易協定締約国を含む)で一定の域内要件を満たした企業に限られる。
となると、他国にそれに伍する措置がなければ、今後大きく伸びるであろう戦略産業での投資・生産は、アメリカ国内で行ったほうが多くの税制優遇が受けられる。立地にこだわらない企業ならば、そう思っても不思議ではない。
EUは批判しつつ税制優遇に舵を切る
これに敏感に反応したのは、欧州諸国だった。
2017~2020年のトランプ政権下でも気候変動問題への対応に熱心だった欧州諸国にとって、その産業面での対応では、インフレ抑制法を成立させたバイデン政権に先を越された形となった。このままでは、戦略産業への投資がアメリカに奪われかねない。
フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長は、2023年1月に、インフレ抑制法が、企業を対象としたインセンティブの点で、多くの懸念を抱かせたことは周知の事実との旨発言し、アメリカや中国などで政府の補助金制度がEUにとって公正な競争に対する脅威となっているとの認識を示した。
つまり、米中が対立の中で、保護主義的な政策を、特に戦略産業で実行していることを問題視したといえよう。
自由貿易の恩恵を受けてきた日本にとっても、EUが保護主義的な政策を問題視する姿勢は、歓迎すべきだろう。しかし、事態はより保護主義的な方向に向かいつつある。
EUは、2023年2月に、グリーンディール産業計画(Green Deal Industrial Plan for the Net-Zero Age)の詳細を示した政策文書を発表した。これは、従来のEUの原則を大きく変えることになるかもしれない。
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