沢登り制覇目前にどこへ「民間捜索隊」過酷な現場 缶ビールを2本冷やしたままどこへ行ったのか
私自身は最近、ご家族と捜索隊の中継地点の役割を担うため、山に入ることは少なくなったが、捜索に参加する時にはやはり「初心者目線を忘れない」ことを大切にしている。
もちろん、地図は読めるし、山に登るための最低限の技術も身に付けている。しかし、「目」だけはプロにならないように心掛けている。
私はメンバーたちに何度も「信じてください! 間違いないです。私の勘です!」と説得になっているような、なっていないような言葉を繰り返し、何とか1日目のルート捜索にこぎつけた。
誰の目にも触れない場所
よくよく検証してみると、Kさんの1日目のルートには1カ所だけ「空白地点」があることに気づいた。
ミズヒ沢から、Kさんの次の目的地、鍋割山(標高1272メートル)へ向かう道中には、「ミズヒ大滝」という滝がある。落差20メートルほど、三段になっている大きな滝だ。さすがに滝の中を直接登ることはできないため、通常ここから先に進むには滝を避けて右から迂回して滝の上まで登る必要がある(登山用語で「高巻き」という)。
「滝を避けて」と書いたが、滝の真横を登れるわけではなく、滝から10メートルほど右に逸れて、いったん沢から離れて尾根を滝の上部まで進むイメージだ。登っている途中、左手に滝は見えるが、それも、木々の合間からチラチラ見える、くらいの距離である。
そのためミズヒ沢を遡行(上流へと遡って登ること)する登山者はミズヒ大滝の水が落下し始める「落ち口」を目にすることはない。ここの落ち口は一度水が溜まってから落ちる形になっている。
沢登りのガイドブックにも、「このミズヒ大滝の落ち口よりさらに上流まで尾根を進み、ミズヒ沢へ戻る」と紹介されている。つまり、滝の上は、誰の目にも触れていないのだ。ここだ!
年が明けて2019年1月6日の午前中。私たち捜索隊のメンバーが男性のご遺体を発見した。ミズヒ大滝の上の落ち口、水面に浮かぶ落ち葉の下で、うつぶせの状態で見つかった。
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