「スーパー資本主義」対「ポスト資本主義」のゆくえ 「火の鳥」に学ぶ「超長期プラス文理融合」の視座
そうではなく、むしろ昭和的な思考の枠組みから解放され、個人がもっと自由度の高い形で自分の人生をデザインし、「好きなこと」を追求していくことが、個人の幸福にとっても、またおそらく経済活力や「イノベーション」にとってもプラスに働くと考えられるのではないか。
山登りにたとえるなら、(人口や経済が増加を続ける)「登り」においては、ゴールは山頂という唯一の場所だったわけだが、山頂まで至れば視界はいわば“360度開ける”のであり、各人はそれぞれ好きな道を選び、歩んでいけばよいのである。目的地そのものが多様化していくわけだ。
「グローバル定常型社会」移行と〈せめぎ合いの時代〉
ここで、視点をグローバルなレベルに移してみよう。
ウクライナへのロシア侵攻が始まったのは2022年2月だった。21世紀のこの時期になって、まさかヨーロッパ近辺で戦争が再び起こるとは思っていなかったというのが、大方の人々の思いだろう。私たちはこうした事態をどう考えたらよいのか。少し長い時間軸から展望してみたい。
世界の「戦争死者数」の推移を概観してみると、16世紀はおよそ160万人、17世紀は610万人、18世紀は700万人、19世紀は1940万人、20世紀は1億970万人という具合に、16世紀から戦争による死者数は急速に増加し、20世紀にピークを迎えた。こうして見ると、近代という時代はその物質的な繁栄の反面、“戦争の時代”でもあったことがわかる。
そしてこの点は、実は人口増加あるいは「限りない拡大・成長」のベクトルという点と深く関連している。つまり上記の16世紀以降の時代とは、ほかでもなく世界人口が急速に増加していった時代であり、20世紀は世界人口の増加が最も大きかった世紀だった。そしてまさにその時代に戦争死者数もピークに達したのである。
これは偶然の一致ではない。考えてみればすぐわかるように、地球上の土地や資源やエネルギーが「有限」な中で、各国の人口やそれに伴う資源消費が増加していけば、自ずと領土や資源をめぐる衝突や紛争が生じるだろう。
ところがそうした状況は大きく変わりつつあり、本書の第1章で論じるように、世界人口の増加は近年において急速に鈍化している。実際、20世紀において世界人口は16億人から61億人へと4倍近く増加したが、国連の人口予測によれば2100年の世界人口は約104億人であり、したがって21世紀全体の人口増は2倍に満たず、しかもその増加の大半は世紀の前半であり(かつその大部分はアフリカ)、後半には世界人口は「成熟、定常化」に向かうのである。
しかし、このことを逆の視点から見れば、現在は世界人口の増加から成熟・安定化に向かう「過渡期」であり、それは文字どおり2つのベクトルの〈せめぎ合いの時代〉でもあるということだ。2つのベクトルとは、これまでの(20世紀的あるいは「近代」的な)発想の延長で、ひたすら領土や資源消費等の「限りない拡大」を求めるベクトルと、むしろ資源消費や環境等を含む「持続可能性」を志向するベクトルである。今回のロシアないしプーチンの行動はまさに前者を象徴するものだった。
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