元宝塚「華麗なる世界、実力主義」転身後のリアル スターへの夢はかなわなかったが、経験は生きる

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――香綾しずるさんのケースでは、卒業後に約1年間勤めたベトナム・ハノイの日本語学校で学校の改革に奮闘したエピソードが印象的でした。“宝塚式”にも通じる掃除や礼儀作法などの指導を取り入れ、渡航からわずか半年で現地の副社長に就任するなどバイタリティーあふれる姿は、宝塚で培ったものを存分に発揮しているように見えます。

「彼女は在団中から本当に行動力があって、組の中でもリーダーシップを発揮していました。舞台でもあまり緊張せず、面白いことをして人を笑わせたり心の余裕のある男役さんでした。女性だけの集団の中で自分を表現し、組をまとめていくという宝塚で得た経験を生かしているんですが、元タカラジェンヌとしてではなく、本名の自分として今のお仕事に熱意を持って取り組んでいる姿が印象的でしたね」

――香綾さんは雪組男役時代には新人公演(大劇場公演の演目を東西で1公演ずつ、入団7年目以下の生徒だけで上演する)の主役も経験しています。スポットライトの当たる華やかな場所からいきなり未知の世界に飛び込んでいけるのはすごいことですよね?

「そうなんですよ。過去にたくさんの印象的な役を演じられて、功績を残した方ですが、宝塚時代にとらわれることなく、既に未来を見ているんだなと感じました。注目されたい、華やかな自分を守りたいという卒業生の方もいらっしゃるとは思うんですが、この本で取材した9人は皆さんが宝塚時代の時間を大切に思いながらも、そこにこだわったり、しがみついたりはしない。既に次に進まれて、今を生きているという方ばかりでしたね」

宝塚 タカラジェンヌ
「自分の弱さと向き合わなければならなかった」と宝塚時代を振り返る早花まこさん(撮影:梅谷秀司)

自分の欠点と向き合う、厳しい世界で得た「強さ」

宝塚は「花」「月」「雪」「星」「宙」の5組があり、それぞれ70人前後の生徒が在籍している。毎年音楽学校を卒業した40人ほどが初舞台を踏み、同じくらいの人数が卒業していく新陳代謝を繰り返してその歴史を紡いできた。学年ごとにきちんとした上下関係がある一方で、各組のトップスターを頂点とした実力主義のスターシステムも存在する、競争の世界でもある。

――女性ばかりの集団で、常に自分の評価を突きつけられているというのはとても厳しい世界のように思います。

「下級生の頃から否応なく自分の弱さや、足りないところを目の前に見せつけられてきました。でもそれを自分で克服しない限りは何も変わらない、というお仕事です。ライバルがいたとしても、自分が向上しなければ意味がないということに気づき、自分と向き合う日々でしたね。

若い時はその現実に逃げたくなったり、人のせいにしたりすることも多々ありました。でもその度に上級生の方が諭してくださり、アドバイスをいただいて何とか乗り越えていく、という感じでした」

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