「指を失くした技能実習生」悲劇を救う"ある存在" 香川県に「モスク」をつくったムスリムは語る
「よう来てくれました。私フィカルね。いまからモスクの打ち合わせするけんね」
あまりに流暢な讃岐弁に拍子抜けしたが、このフィカルという男がモスクをつくろうと奮闘するインドネシア人ムスリム・コミュニティーのリーダーらしい。この日は計画について話し合うために、彼の家に友人が集まっているとのことだった。
当時、香川県には約800人のインドネシア人が暮らし、他にもパキスタン人、バングラデシュ人、モロッコ人、トルコ人など多国籍のムスリムがいたが、モスクは存在しなかったのである。「どうぞどうぞ。入ってください」と低姿勢のフィカルさんは玄関のドアを開けてくれ、私は導かれるようにその家に足を踏み入れた。その先に、イスラム教の未知の宇宙が広がっていて、私と彼との長い付き合いが始まるとは知らずに。
モスクは技能実習生たちを救うか
2013年ころだろうか。東京から久しぶりに香川県の高松市に帰省すると、中心部のコンビニの店員の、ほとんどがネパール人やベトナム人などアジア系の外国人になっていた。高松市も国際化が進んだものだと感心しつつ街を観察していると、褐色の肌の若い男やヒジャブをかぶった集団が、チャリをこぐ姿を見かける頻度が増えたことに気がついた。
彼らは同じ国籍であろう集団を成し、公園にもいたし、海辺にもいた。夜中の商店街で地べたに座り込んでいたり、電車の中にもいたが、日本人と喋ったり、交流しているさまを見たことがなかった。周囲の日本人は彼らのことを、時々ちらちら見るが、境界線が引かれているように感じた。いてもいいが、こちらの世界の邪魔をするな、という暗黙の了解がそこに存在するような不思議な距離感だった。
私は、彼らがどこからきて、何をしているのかが気になっていたが、彼らが技能実習生だと気づいたのは、フィカルさんとの付き合いが始まってからだ。
私は技能実習制度が抱える問題も、モスク建立が必要な理由なのではないだろうかと予測を立てた。低賃金、過酷な労働環境、モラハラやセクハラ。寮からの逃亡や自殺。センセーショナルに報道され、現代の奴隷制とまで言われている悪名高き制度。会社によっては、携帯電話を使えないこと。パスポートを取り上げられること。職場を自分の意志では選べないこと。技能実習生たちを、人として扱わない会社があるのも事実だ。
2020年の外国人労働者の死傷者数は4682人で、死者数が30人。工事現場での足場からの転落や工具使用中の事故などに巻き込まれる外国人労働者の人数は、日本人労働者の約2倍だといわれている。
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