「指を失くした技能実習生」悲劇を救う"ある存在" 香川県に「モスク」をつくったムスリムは語る

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次の日、フィカルさんは仕事を休み、ハサンくんを連れて彼の職場にいった。フィカルさんも乗り込むことへ恐れがなかったわけではない。その社長には会ったこともないし、どんな会社かも知らなかったので、事前にインドネシア大使館に連絡をして問題が起こったときに、相談をさせてほしいとお願いをしていた。

社長は70歳くらいの男性だった。突然の荒ぶるインドネシア人のカチコミに驚いた様子を見せ、言い訳を始めた。

「そいつが帰りたいっていうから帰らせるんや。家族がおるし、帰らせたほうがいいかなって」

しかしフィカルさんは「そんなのありえないです! 外国人やからって、なめてるんですか!?」と鬼の形相で交渉を始めた。その勢いに押された社長から徐々に威勢のよさが消えていき、弁護士との話し合いを受け入れ、その結果示談を希望した。そして結局200万円をハサンくんに支払うことで話が付いたのである。会社が加入していた保険と労災を利用してのものだった。

コミュニティーの結束力を高めるしかない

インドネシア大使館の職員は、自国の若者を傷つけられたことへの怒りが収まらず、テレビ局にリークして取材をしてもらおうとしたが、フィカルさんはそれを止めた。

香川にモスクができるまで
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「そのあとも、その会社に何度か行って社長と話をしたんや。そしたら、反省してくれた。もうこんなことないようにするって。あんまり追い込んでもかわいそうやん。自分のお父さんが生きとったら、これくらいの年齢やしなあ」

実に頼れる兄貴だ。ハサンくんはたまたまフィカルという豪気な男と友人だったからよかったが、泣き寝入りするケースが多いだろう。だが、もしも近所にモスクがあり、日常的に人が出入りしていれば、もっと早くにだれかが彼の異変に気づき、意見を出し合い、なんとか解決の糸口を見つけられたはずである。

本来ならば、日本の政府機関や管理団体が、そういった問題に対応すべきだが、そこに頼れないのであれば、コミュニティーの結束力を高めるしかないのだ。

岡内 大三 ライター/編集者

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おかうち だいぞう / Daizo Okauchi

1982年生まれ。海外居住やバックパックでの旅を通じて、異文化に触れてきた。2011年に東京の出版社を退社し、フリーランスに。移民、少数民族、難民などを取材し、ノンフィクション記事を執筆。土着的な音楽や精神世界などにも興味を持ち、国内外で取材を続けている。近年は文章に軸足を置きつつ、リサーチをベースにした映像作品も制作。身体表現や生け花などのパフォーマンスをメディアと捉えなおし、ストーリーテリングの手法を模索している。

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