「指を失くした技能実習生」悲劇を救う"ある存在" 香川県に「モスク」をつくったムスリムは語る

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技能実習生
一人で悩みを抱えてしまう技能実習生にとって、何が救いとなるのでしょうか(写真:Fast&Slow/PIXTA)
日本で暮らす移民の数は、年々増え続けています。その中で、技能実習生の待遇や環境をめぐる問題の発覚は後を絶ちません。
移民の中でも、推計18万3000人いるとされている(2019年末時点)在日ムスリム。香川県には、同年時点で約800人のインドネシア系ムスリムからなるコミュニティーが存在していましたが、信仰のための施設「モスク」は当時ありませんでした。そこでモスクを建立するために立ち上がったムスリムたちは、次々と起こる難題やパンデミックを乗り越え、数千万円の資金を技能実習生からの寄付を中心に集めることに成功し、苦労の末に完成させます。
その顛末を描き、「モスクがなぜ必要か?」を掘り下げることで、異文化共生について考察したノンフィクション『香川にモスクができるまで』より一部抜粋・編集のうえ、技能実習生の実態についてお届けします。

香川県にモスク建立の動きあり

「香川県にモスクをつくろうとしているインドネシア人がいる。その男は、溶接工で、長渕剛が好きらしい」

その噂を聞いた私は、背後のヘッドライトに煽られながら、車で香川県のX市に向かった。2019年9月某日の夜7時。私はその男と会うために、瀬戸内海に面した工場地帯を抜け、やがて住宅団地の神社の駐車場にたどり着いた。

モスクがイスラム教の集団礼拝所だとは知っていたが、タイル張りの細密画で装飾された宗教施設という印象が強く、あのような建造物が香川県の地方都市にできることが信じられなかった。

しかし、情報元のBさんは信頼できる人だった。Bさんはサーファーで、インドネシアに波を求めて通ううちにムスリムに改宗した。インドネシア人技能実習生をボランティアで世話していたので、コミュニティー内部に詳しい人だったのだ。

フラフラ歩くサラリーマンや、子供を乗せチャリで爆走する女性とすれ違いながら、街灯を頼りに指定された住所へと歩く。一体どんな男なのだろうか? モスクをつくろうというくらいだから、さぞ信心深く、真面目な人なのだろう。警戒心が強い可能性もある。追い返されたらどうしようか。いや、それよりも長渕が好きというのがひっかかる。

そんなことを考えていると、民家から男が現れ、巨体を揺らしながら近づいてきた。褐色の肌に彫りの深いインド系の顔だ。身長は180㎝くらいあり恰幅もよく、ムスリムがかぶるらしい刺繡が施された帽子をかぶっている。受けとった怪しい印象に、私は思わず身構えた。男は大きな瞳をこちらに向け、口を開いた。

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