「指を失くした技能実習生」悲劇を救う"ある存在" 香川県に「モスク」をつくったムスリムは語る

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こういった相談も、モスクがあるとしやすくなる。私はこの後も、多くの技能実習生に会うことになるのだが、大きな不満を聞くことはほぼなかった。世間が抱くイメージとはギャップがある。困っていない労働者の日常はニュースにならないからか、情報の混線が起きているように感じた。

フィカルさんたちは「一部にひどい会社もあるし、すぐ殴る社長もいるが、それが全体ではないということをわかってほしい」と言う。もちろん、人道的に問題がある悲劇的な出来事を伝えることで、社会を変えていくべきだが、そればかりでは彼らの人間性を奪うことになる。

彼らに日本メディアの報道内容を伝えると「技能実習生=かわいそうな人と思われるほうが、いやだ」という人も多い。確かに改善すべき課題が多い制度ではあるし、彼らの待遇を変えていくべきだが、善意の偏向報道のおかげで、そういったイメージだけが定着しつつあるのも困ったものだ。

そしてフィカルさんは「ひどい話も実はあったよ」と、「フィカルVS悪徳業者の戦い事件」を語ってくれた。

ハサンくんの身に起こった悲劇

フィカルさんは、4年前にある業者に乗り込んだ。ハサンくんという弟分のために。ハサンくんは技能実習生で、頻繁にフィカル家を訪れ、娘たちにアラビア語やインドネシア語を教えてくれていた。優しく、人のことを第一に考えられる若者で、母国で父と起業する資金を貯めるために一生懸命働いていた。フィカルさんもご飯をおごったり、相談にのってあげていた。

そのうち2人の絆は深くなっていき、ハサンくんはフィカルさんを兄貴のように慕うようになった。しかし、突然連絡がとれなくなってしまった。フィカルさんは不安を募らせていた。ハサンくんから電話があったのは1カ月後だった。

彼は受話器越しにこういった。

「1週間後にインドネシアに帰るから、お別れを言いに行きたいです」

フィカルさんは理由を聞かなかったが、不穏な空気を感じた。その予感は的中する。数日後、家を訪れたハサンくんの姿を見て、フィカルさんは涙を流した。

「片方の手の指が2本なかったんや」

職場の作業中の事故で指が切れてしまったのだという。その会社の社長は、病院には連れて行ってくれたが、2週間で無理やり退院させられた。病院側は、まだ入院が必要だと忠告したが、入院代は会社持ちだったので、早く退院させたかったのだ。

そして働くことができなくなったハサンくんに、30万円だけ渡して母国へ送り帰そうとしたのである。裁判を起こさないように約束させるための、手切れ金だった。

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