「指を失くした技能実習生」悲劇を救う"ある存在" 香川県に「モスク」をつくったムスリムは語る

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私は、フィカルさんの友人の技能実習生を数珠つなぎ的にたどり、聞き取りを開始した。まず高松市にあるお菓子屋さんの工場で働いているアナさん。彼女はケーキをつくったり、箱詰めの業務を行っている。

マスコミは、センセーショナルなストーリーを好む。正直に言えば、心のどこかでつらい体験を語ってほしいという期待を持っていたが、彼女はあっけらかんとしていた。

「つらいことは特にないです。休日もちゃんとあるし、桜の季節は、いろんなところに写真をとりに行きますよ。カメラと三脚を持って、自転車や電車で観光名所も巡っています。あとは、うどん屋とか、イオンによく行っています。インドネシア人、デパートが好きだから」

では職場では?

「私が働いている会社は働きやすいと思います。残業もないし。同僚のおばちゃん優しいし。問題なのは、職場でヒジャブをつけられないことですね。会社の近くでも、つけたらダメと言われるんです。世間体が悪いらしくて。つけてないと恥ずかしい」

世間体が何を意味しているのか定かではないが、ヒジャブへの偏見は根強い。彼女とは高松市の商店街やうどん屋で、何度か偶然会った。高松市の商店街はアーケード街としては日本一長いが、人がまばらなときは彼女たちが集団で歩く姿は遠くからでも目立つ。雑踏に紛れ込んで自分の存在を消せる都会と違い、人目が気になることもあるそうだ。

現場仕事はどうだろう。溶接工として働くナンダくんにも話を聞いた。

「日本にきたころは、怒られることが多かったです。日本語も難しいから。でも、今は技術が上達したし、流れ作業だから、特にストレスもないです」

来年インドネシアに戻るというが、目標だった家族に家を建てる資金を貯め、欲しかった最新型のドローンを買った。休日はインドネシア人たちとサッカーをしたり、海辺で黄昏れたり、チャリで観光地を回っているのだそう。

多くの技能実習生は大きな不満はない

フィカルさんは「技能実習生の職場でのトラブルの多くは話し合いで解決する」と言う。日本に来たばかりのインドネシア人は、日本語が理解できない人もいる。特に方言は、聞き取るのが難しく、社長や同僚と意思疎通が取れずに、関係が悪化することが多いのだそう。

フィカルさんは知人の社長から「職場のインドネシア人が働かない」と相談を受けることがある。そのインドネシア人たちと話すと「社長が何を言っているか、理解できないから仕事ができない」と言うのでフィカルさんが通訳をしてあげた。本来ならば、技能実習生をサポートする管理団体がするべき仕事だが、後日、社長から「めちゃくちゃ働くようになった」と感謝の電話があったようだ。

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