「重要文化財の重要とは?」藤田嗣治は指定なし 東京国立近代美術館で重要文化財を一斉展示
東京・竹橋の東京国立近代美術館で「東京国立近代美術館70周年記念展 重要文化財の秘密」と題した展覧会が開かれている(5月14日まで、会期中展示替えあり)。明治以降の絵画・彫刻・工芸作品の中でこれまでに重要文化財に国から指定された全68点のうち51点、すなわち75パーセントが出品されるという貴重な展覧会である。
重要文化財とはそもそも何なのか。文化財保護法の条文を見てみよう。
第二十七条:文部科学大臣は、有形文化財のうち重要なものを重要文化財に指定することができる。
2:文部科学大臣は、重要文化財のうち世界文化の見地から価値の高いもので、たぐいない国民の宝たるものを国宝に指定することができる。
有形文化財である絵画や彫刻などのうち「重要なもの」が重要文化財、その中で「国民の宝たるもの」が国宝に指定されるということだ。ただし、明治以降の作品には国宝はまだ存在していない。それゆえ、この展覧会には近代美術の中で最も重要な作品が高い割合で集まっていることになる。では、重要文化財は、どこがどう重要なのだろうか。そんなことを考えながら鑑賞すると、作品の特質や個性が自ずと浮かび上がってくる。
火炎光背がない狩野芳崖の「不動明王図」
まず紹介したいのは、明治以降の絵画で初めて重要文化財に指定された4つの作品の中の一つ、狩野芳崖(1828〜1888年)の「不動明王図」(展示期間終了)だ。1950年に施行された文化財保護法に基づいて、1955年に指定された。
「不動明王像」自体は、仏教絵画や仏教彫刻の伝統的な題材の一つだが、いにしえの「不動明王像」とは少々異なる雰囲気を醸し出している。理由は、不動明王が座っている空間にある。通常の不動明王像には、背後に光背がしつらえられている。その光背はたいてい赤く燃え盛った炎の様相を呈しており、右手に持つ剣や不動明王自身の憤怒の表情とあいまって、悪霊を退散させ、向き合った者の煩悩を断ち切らせようという強い気迫を伝えてきた。
しかし、芳崖のこの絵には、火炎を表す光背はない。実は筆者は、江戸時代以前の不動明王図を見ていて、しばしば火炎型の光背に魅力を感じていた。燃え盛る炎の赤が強いエネルギーを放つからだ。一方、光背がない芳崖の不動明王は洞窟の中にいる。いかにも芳崖らしい、えぐったような形で描かれたその洞窟の描写は、深淵を覗かせるような凄みをもたらしている。不動明王の体には西洋絵画で見られるような陰影が施されており、洞窟の背後の奥深さの表現と相まって、著しい立体感を表している。それゆえ、画面を凝視していると不動明王の姿が浮き上がって見えてくる。
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