ハチミツ少量の「小さなハチ」に引く手あまたの謎 東南アジアに生息「ハリナシミツバチ」に迫る

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ハリナシミツバチ(写真: ViniSouza128 /PIXTA)
世界は風変わりな学びにあふれています。当事者にとっては当たり前の生活の一部なのに、地域性があまりに強いが故に、外からしてみたらちょっとヘンなものがたくさんあるのです。サイエンスライターの五十嵐杏南氏の新著『世界のヘンな研究』を一部抜粋・再構成し、ハリナシミツバチが地元にもたらす雇用を紹介します。

世界中でメジャーなのは多量のハチミツを作れるセイヨウミツバチの養蜂だが、フィリピンでは、ちょっと変わったミツバチの養蜂のほうが盛んだ。東南アジアに昔から住む「ハリナシミツバチ」というハチだ。

セイヨウミツバチと同様、コロニーを作って社会生活を営むが、体はとても小さく、せいぜいアリ程度の大きさだ。そしてその名のとおり、針を持たない。フィリピンではセイヨウミツバチは500軒程度の農家が養蜂に携わる一方、ハリナシミツバチの場合は2000軒以上もの農家が携わっている。

とはいえハリナシミツバチから得られるハチミツはごく少量。セイヨウミツバチはコロニー1つに対して年間平均11キログラム程度を作るが、ハリナシミツバチの場合は2キログラム、がんばって4キログラムほど。こんなに生産量が少なくてもハリナシミツバチの養蜂が支持されるのは、フィリピンの農業を支える上で重要な役割を果たしているからだ。

養蜂を普及させた「ハチプログラム」

ハリナシミツバチはずっと昔からフィリピン諸島に生きていたにもかかわらず、2000年代まではその重要性が認識されずにいた。だがそんな状況を一転させ、ハリナシミツバチ養蜂を一手に普及させたのがフィリピン大学ロスバニョス校の「ハチプログラム」だ。

プログラム設立のきっかけは、フィリピン大学名誉教授クレオファス・セルバンシア博士が昆虫の受粉行動の研究のためにハチを飼い始めたことだった。

「農家の敷地を貸してもらってハチを飼っていたところ、農家の人からハチの飼い方を教えてほしい、と言われたのです」とセルバンシアさんは振り返る。そこで農家や養蜂家志望の人向けに養蜂を教えるプログラムが設立されることになった。

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