「考え方が昭和すぎ」嫌われる年配社員の"活用法" 儒家・荀子「性悪説」で読み解くリーダーの資質

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池波正太郎の小説『鬼平犯科帳』の中には、「人は、悪いことをしながら善いことをしている」という言葉が出てきます。江戸時代を舞台とした捕物帳ですが、多くの犯罪の裏には憎めないドラマがあります。

盗みを働いていた人が、家族を養うために泣く泣く犯罪に手を染めていたり、弱者に施しをする人格者として世間からあがめられていた長者が、実は盗みによって財を成していたり……。

善悪という概念では単純に切り分けられない人間の奥深さを描いた小説ですが、そこに人を理解する上でのリアリティを見ることができます。

馬場さんも悪い面ばかりにスポットが当たっていますが、目標必達の姿勢や技術を学んで営業する姿勢など、若手がお手本とすべき点があります。それらの「良いこと」には目を向けずに、「馬場さんは悪い」と一方的に決めつけてしまうことには少々注意が必要です。

中国の戦国時代に成立した名著『荘子』の中にこんな言葉があります。

夷らなる道は纇れるがごとく、上徳は谷のごとく、太白(たいはく)は辱れたるがごとく、広徳は足らざるがごとく、建徳は偸(うす)きがごとく、質真は渝(かわ)るがごとく、大方(たいほう)は隅なし、と
現代語訳:(本当に)平坦な道はデコボコして見える。最上の徳は低い谷のように見える。もっとも潔白な色は薄汚れているように見える。本当に広大な徳を持つ人はどこか足りないように見え、確固として打ち立てられた徳を持つ人は軽薄に見え、質朴で真実のある人は無節操に見え、無限に大きな正方形には角がない。

このように、物事が“パッと見”の印象とは大きく異なる特性を持っていることはしばしばあります。

たとえば、一見、怖い人だと思ったけど、実はやさしい人だった……と驚くことがあるでしょう。

やさしいからこそ、やさしさの功罪をよく心得ていて、感情を安易に表に出さないのです。

あるいは、やさしさのために失敗した経験があり、逆の態度をとるようになった、ということかもしれません。

こう考えると、善と悪を簡単に切り分けることが果たして正しいのか、疑わしくなるでしょう。

良し悪しも含め、物事を単純な二者択一ではなく、相対的なものとして捉えることが、東洋思想の特徴なのです。

「スターウォーズ」に見る 善と悪の境界線

善と悪は表裏一体であり、常に紙一重のところで入れ替わるものでもあります。

映画「スター・ウォーズ」シリーズは、正義の戦士ジェダイとシスの暗黒卿との争いを描いた物語です。このなかでも善と悪が入れ替わる様子が描かれています。

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