織田信成さん「モラハラ訴訟」敗訴に学ぶ3つの論点 自分が見ている景色と相手が見ている景色は違う

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③の「就業環境が害される」とは、その言動により、労働者が身体的・精神的に苦痛を受け、職場環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、労働者が業務をするうえで看過できない程度の支障が生じることをいいます。

この点、同じことをされても深く傷つく人もいれば平気な人もいるでしょう。そこで、③の要件は、本人が実際にどう感じたかよりも、「平均的な労働者の感じ方」、すなわち「同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業するうえで看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうか」を基準とすることが適当とされています。

報道によれば、今回の判決でも、「織田さんがハラスメントだと主張する行為は、もともと濱田コーチに対して有している印象や、その時々の織田さんの心理状態、主観的な捉え方や受け止め方にも左右されるおそれがある」と指摘されたとのことです。

パワハラの法律上の定義は抽象的であいまい

このように、パワハラの法律上の定義は抽象的で、あいまいです。そこで、厚労省のパワハラ防止指針では、パワハラを

①身体的な攻撃
②精神的な攻撃
③人間関係からの切り離し
④過大な要求
⑤過小な要求
⑥個の侵害

の6つの類型に分けて、それぞれの類型ごとに、パワハラに該当すると考えられる例と、該当しないと考えられる例を挙げてくれています。しかし、パワハラ防止指針は参考にはなるものの、これだけではパワハラに当たるかどうかの境界線はあいまいなままです。

例えば、②精神的な攻撃についてみると、パワハラに該当する例として、「人格を否定するような言動」を行うことが挙げられています。一方、パワハラに該当しない例として、再三注意しても改善がされなかったり、重大な問題行動があったりした労働者に対して「一定程度強く注意をすること」が挙げられています。

また、④過大な要求については、「到底対応できないレベルの」業績目標を課し、達成できないことを厳しく叱責することはパワハラに該当するとされている一方で、「少し高いレベルの業務」や「通常時よりも一定程度多い業務」はパワハラに該当しないとされています。

考え方はそのとおりだと思いますが、実際の場面で、どんな言動をしたら「人格否定」や「到底対応できない」に当たるのか、あるいは「一定程度の強い注意」「少し高いレベルの業務」「一定程度多い業務」にとどまるのかは事案ごとに個別に検討せざるをえないのです。

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