東日本大震災による金融機関、事業法人の格付けへの影響は限定的《ムーディーズの業界分析》

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 ムーディーズが格付けしている多くの事業法人にとっての影響は、主には、電力抑制による短期的な操業停止と、被災地における深刻な営業中断であろう。この地震により、莫大な損害を受けた企業については、情報収集が進むにつれて数日中に明らかになっていくが、現時点においては、ムーディーズはそうした特筆すべき企業について認識していない。しかしながら、下記は他のセクターよりも大きな損害を受けたセクターであり、以後数週間のうちに格付けアクションの対象となる可能性がある。

1. 保険業界
2. 電力業界
3. 被災地に重要な拠点のある地方銀行
4. 輸送機関
(損害の規模で降順)

保険業界
 この大規模な地震と津波により、日本を含む世界中の保険会社と再保険会社は多大な損害を被り、業界全体の信用力はマイナスの影響を受ける、とムーディーズは考える。保険でカバーされる最終的な損害額およびその負担者は、保険内容(たとえば、政府の再保険制度は一般住宅を対象としているが、商業不動産を対象としていない)、再保険金額、再保険の契約内容によって異なるであろう。

日本国内の保険会社のうち、損害保険業界はMS&ADグループ(保険会社の支払い能力に対する格付け[保険財務格付け] 三井住友海上グループ:Aa3、格付けの見通しは安定的、あいおいニッセイ同和損害保険:A1、格付けの見通しは安定的)、東京海上グループ(Aa2、格付けの見通しは安定的)、NKSJグループ(損保ジャパンAa3、格付の見通しは安定的)の3つのグループが全市場90%を占めているという非常に集約された市場となっている。

民間損害保険会社の共同出資による日本地震再保険は、地震保険を上記の三大保険グループを含む国内保険会社から引き受け、5.5兆円(669億ドル)を限度として補償している。1150億円(14億ドル)以上の損害は、同社、国内の損害保険会社と日本政府がさまざまなレベルで負担分担している。

日本の損害保険市場は大きな市場であるために、ロイズのシンジケーションを含んだ国際的な再保険市場でも多額にわたって再保険されており、保険会社の実際の損害を計算にするには時期尚早である、とムーディーズは考えている。さらに、停電や交通障害による事業損失も発生することが予測されるが、損害の規模は不明である。

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