東日本大震災による金融機関、事業法人の格付けへの影響は限定的《ムーディーズの業界分析》

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電力業界
この地震により最も被害を受けた電力会社は東京電力(Aa2、格下げ方向で見直し中)(注)であり、東京から240キロメートル北に位置する福島第一原子力発電所の被害状況が最も注視されている。少なくとも第1号機から第3号機の3基の原子炉は深刻な損傷を受けており、今後使用不能となるものと想定され、同発電所の他の原子炉についても操業復旧の見込みは立っていない。

また、評価損や、原子炉の廃炉、被害を受けた設備の取り換えのための投資、代替のための当面の火力発電による電力供給による費用等は甚大なものになるとみられる。原子力に代わる電力供給は石油価格の高騰により、原子力発電よりも高額になる見込みである。また、制度的にはこのような費用の増加分については需要者に転嫁することができるとされているものの、電気料金の値上げの実施時期やその値上げ幅は不透明である。

東京電力は、以前にも、2007年7月の中越沖地震により、07年度、08年度と続けて純損失を計上した。また、09年度の営業利益も依然として06年度の50%程度にとどまっている。よって、ムーディーズは巨大地震が東京電力に与える影響は甚大であり、長期化するものとみている。さらに、この地震が電力業界全体の格付けを再評価する契機になる可能性もある。

一般的に電力会社は事業リスクと規制リスクが低い産業であるために、比較的高いレバレッジで事業を行ってきた。しかし、今回の東日本大震災と07年の中越沖地震で、日本における原子力発電は想定されていたよりも大きなリスクをはらんでいることが明らかになった。原子力発電が日本の電力の30~40%あまりを供給しているという状況を鑑みれば、高い格付けを維持するには、より低いレバレッジが求められる可能性がある。

日本にとって安定した電力供給は重要な課題であり、電力業界に対する政府の規制・保護と銀行による支援は継続されるとみられる。よって、当業界においては短期的な流動性の問題は発生せず、電力会社をサポートする政府の方針には長期的にも変化はない、とムーディーズは考える。

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(注) 記事内容は3月15日時点のもの。東京電力については、18日付けで2段階の格下げを発表、「A1、さらに格下げ方向での見直しを継続」とした。

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