「違いがわかるかな? 2つある」
「縦軸が変わりました。先生のグラフは縦軸がゼロから100までに変わりました」
「うん。まぁ、ゼロから100までが正しいわけではないが、あることに気が付いてほしくて、このようにしたのだ。貴君のグラフと見比べてほしい。貴君のグラフは、ドクターズコスメと他製品の顧客満足度が大きく異なるように見えるが、縦軸を変えただけで、その印象は変わって見えるだろう。貴君たちのグラフは、見る人に『(実は違いはそれほどないんだけれど)大きな違いがありますよ』と伝わるように作られていると言われる恐れがある」
そんなことは、考えていません、と私は言いたかった。でも、言えなかった。実のところ、私は「何も考えていなかった」のだ。Excelのシートにデータを入れて、自動でグラフが出来上がっただけだ。
私は縦軸を故意に変えてはいなかった。Excelが自動で、見やすいようにしてくれたんだろう。裏を返せば、Excelを使う他の多くのビジネスパーソンも、同じことをやってしまっているのかもしれない。
標準偏差を見れば全体の傾向がわかる
「さて、2つ目の違いは何だろう? こちらのほうが重要だ」
「グラフに棒が付いています」
「そう。エラーバーだ。このバーは不偏標準偏差を表している。不偏標準偏差は、データの平均値に対して『主にこの範囲にデータが集中している』と示すもので、公式によって導ける。詳しく説明するとややこしいので割愛するが、多くの場合、不偏標準偏差の範囲に全体の68%のデータが含まれる」
班目教授は、グラフにつけられたバーを指で示した。
「グラフには不偏標準偏差などのエラーバーを付けるのが研究者の世界では基本だ。貴君が用いたExcelというソフトウェアでは、不偏標準偏差は関数『STDEV』を使うことで簡単に求められる。コスメの利用者全体(母集団)のデータの68%が存在すると期待される範囲が、不偏標準偏差のエラーバーで表わされている」
「不偏標準偏差を用いることで、私たちが調べることができない母集団のことがわかるんですね!」
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