ドラマ好きが推す「カンテレ」攻めた作品が多い訳 直近は「エルピス」を放送し、SNSでも話題を呼ぶ

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本作が異質だったのは、綿密な調査によって作り込まれた脚本で描かれるシリアスかつスリリングなストーリーの展開に加えて、役者の鬼気迫る演技や映像のクオリティーにもある。誰もが楽しく安心して観られる、従来の万人向けの“地上波ドラマ”ではない、という部分も大きいだろう。

そこに佐野プロデューサーが移籍した経緯といった、ドラマ制作の裏側のエピソードも注目を集めた。そんなトータルでの力強い作品力に、敏感に反応した多くの視聴者が、エルピスの世界に引き込まれていったのだ。

カンテレがエルピスのようなドラマを作ったのは偶然ではない。この10年でメディアを取り巻く環境は大きく変わり、放送から配信へと主戦場が移り変わっていった。

さらにかつてはテレビというキングオブメディアにおいて独壇場だった地上波ドラマは、配信プラットフォームのオリジナルドラマや海外ドラマなどとの熾烈な競争に巻き込まれていく。

そんな環境の変化に最もアクティブに順応しているテレビ局の1社がカンテレである。

制作局長の小寺氏は、2020年までコンテンツビジネス部長を務め、プラットフォーム各社との、番組配信契約などストックコンテンツのビジネスに従事してきた。

地上波ドラマと配信ドラマの違い

小寺氏が自社ドラマをプラットフォームへ売り込むうえで感じたのは、配信ドラマのクオリティーと視聴者の本物志向のニーズだったという。

地上波ドラマは、1話完結が観てもらいやすい、恋愛要素があるほうがウケる、画面が明るいほうがいい、といった定説や視聴率を上げるためのセオリーがある。

だが、逆にそれらを踏襲するドラマこそ、いまの視聴者にはチープに見られることに気づいた。

小寺氏は2020年にドラマ制作の責任者になると、「従来の作り方ではテレビ局のドラマは観てもらえなくなる」と社内を鼓舞した。

「テレビ業界は守られた世界であることをプラットフォームとのビジネスのなかで痛感しました。商流もビジネススタイルもテレビの先に進んでいて、制作予算も作品の規模感もまるで違います。そんな無数のドラマが生まれているなか、海外ドラマを含めてすべてがライバル。そこで勝っていくには、個性とオリジナリティーが必要です」

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