仕事のできるいい人ほどハマる「我慢」のワナ 頼りにされる人ほど無意識の我慢に気づかない

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無意識の我慢をし続けると、感情障害(うつ状態)になるだけでなく、あるとき突然「キレる」こともあります。我慢し続けたことによる不快感や欲求不満が鬱積して、怒りがたまり、我慢をさせられたと思う相手や周囲の人を恨み、それを爆発させたり、八つ当たりをしたりします。

自分を抑えて、我慢してきた。それなのに、相手はそれをわかってくれない。どうしてわかってくれないんだ!

自分が選択した「我慢」だったのですが、我慢したゆえに理解されなかったことで、自己犠牲を負わされたような気持ちになり、我慢を理解してくれない相手に怒りを覚える。その結果、突如他人への激しい攻撃が始まることもあるのです。

制御不能に陥る前に、我慢に気づくことが大切

このように、我慢はおとなしく、やさしいと思われていた人のたまった怒りを、爆発させてしまうこともあります。「あの人が?」と思われるような事件がありますが、そのような形で我慢が表現される場合もあるわけです。時には、無関係の部下、家族や連れ合い、あるいはまったく面識のない赤の他人に、八つ当たりという形で怒りをぶちまけることもあります。

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例えば、2008年に起きた秋葉原無差別殺傷事件の青年は、長年ため込まれた我慢が一気に爆発した、最悪のケースのひとつではないかと思われます。事件を取材した記録によれば、加害者は職場で不満があるたび、無断欠勤しては退職することを繰り返していたそうです。

言葉で対話しようとせず、行動のみで意思表示する。その繰り返しの中で、加害者は自分でも気づかないうちに、どうしようもないほどの我慢を抱え込んでいったのではないか。無差別殺人など、到底許されるものではありませんが、我慢の果てにこうした悲劇があちこちで起こっていることもあるでしょう。

我慢していることに気づかなくなると、うつになったり、暴力的になったりするおそれがあり、いずれも自分の行動をコントロールできなくなる状態に追い込まれています。制御不能に陥る前に、我慢に気づき、自分の本当の「思い」に意識を向ける。そのための心強い味方にアサーションがあることを覚えておきましょう。

平木 典子 臨床心理士、家族心理士

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ひらき のりこ / Noriko Hiraki

1959年津田塾大学英文学科卒業後、ミネソタ大学大学院に留学し、カウンセリング心理学を専攻(教育心理学修士)。帰国後、カウンセラーとして活躍する一方、後進の指導にあたる。日本におけるアサーション・トレーニングの第一人者。立教大学カウンセラー・教授、日本女子大学教授、跡見学園女子大学教授、統合的心理療法研究所(IPI)所長を経て、2019年より日本アサーション協会代表。臨床心理士。家族心理士。著書は、『アサーション入門』(講談社)、『図解 自分の気持ちをきちんと「伝える」技術』(PHP研究所)、『マンガでやさしくわかるアサーション』(日本能率協会マネジメントセンター)など多数。

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