ーーかなりつらかったと思いますが、誰かに相談はできましたか……?
塩谷:いや、言えないですね……。 小杉湯の人にも言えないし、周りの人にも言えない。 SNS にも書けないです。「こんなによくしてくれた小杉湯のこと悪く言うのか」って、罪悪感があったので。人に言えないぶん、自分をボコボコに責めてました。
でもやっぱり、「絵を描きたい」という気持ちにまっすぐでありたいという気持ちは抑えられなくて。お世話になった小杉湯の人たち、全員に打ち明けたら、みなさんあたたかく背中を押してくれたんです。それで、2021年の5月に小杉湯を退職して、6月に画家として独立しました。
「認知の歪み」に気づいた
ーー2度の休職の背景にあった根本の問題とは、なんだったのでしょう。
塩谷:必要以上に自分を苦しめる、認知の癖みたいなものがあったのかと。
たとえばさっきも話したように、ずっと「私には才能がない」と思っていました。大学時代にいい成績がとれなかったことから、強い劣等感を持っていたんです。でも、分野にもよりますが、成績はある程度先生の好みで決まる部分もあるじゃないですか。だから、今思えば自分を責める必要なんてないんですが、かつての私は、自分を許せなくて。
あとは、「堅実に生きなきゃいけない」という思いもありましたね。 「堅実なルートを外れちゃいけない、お金を出してくれた親に申し訳ない」と。絵を描く仕事なんて、堅実じゃないから絶対にやらないと思っていました。
でも私、本当は堅実じゃない生き方が合ってるんです(笑)。子どもの頃からまわりに迎合できなくて、学校も職場も、あまり馴染めなかったので。なのに、自分を合わない箱に押し込めようとしていた。それは苦しくなりますよね。
ーー心理学で、偏った物事の捉え方を「認知の歪み」というそうですが、そういった歪みがあったんでしょうか。
塩谷:そう思います。誰にも相談できなかったぶん、歪みがなおさらひどくなったんだろうなと。そういう認知の歪みに、2度の休職を経て気づいていきました。