ーー「認知の歪み」に気づくのは簡単ではないと思いますが、どうやって気づいていったんですか。
塩谷:うーん……「こうしたのがよかった」という、唯一の答えはないんです。海を見に行ったりして自然に触れたのもあるし、カウンセリングに行ったのもあるし。あとは、独立や引っ越しをして、環境を変えることができたのも大きいと思います。
なので、「これ!」といえる方法はないんですが……私の場合、その期間の心の支えは、やはり絵だったと思うんですよね。絵を描くことを通して、自分の声を聴いていたんです。つまり、描く時間は自分の心や身体と対話する時間だったなと。
自分の声を聴く時間を持つ
ーー絵を描くことが自分の声を聴くこと、なのでしょうか。
塩谷:はい。仕事を休んでいるときも、ずっと絵は描いていました。 描いているときだけ、楽しい気持ちになれたんですよね。
描いているときって、自分の声がすごく聴こえるんですよ。たとえば今でも、描きながら悪い妄想が繰り返すことがたまにあります。「今足元に置いているヒーターから火事になったらどうしよう」とか。そうすると、「私、調子悪いんだな」と気づくんです。
一方で、調子がいい日はヒーターを5時間放置して絵に没頭する時もあります(笑)。
ーー絵を描くことで自分の声を聴いて、今の状態を知ることができるわけですね。
塩谷:そうです。休職中は、描きながら何を考えてたんだろうな。「あの出来事が嫌だったなあ」と思っていたかもしれないし、それこそ、「死にたい」と思っていたかもしれない。
描いていたら、そういうネガティブな感情がたくさん出てきた。今思うと、それがすごく良かったと思うんですよ。
ーーネガティブな感情が出るのは、避けるべきことじゃないと?
塩谷:避けるべきじゃないと思います。むしろ、そういうネガティブな声を聴く時間はすごく大事だなと。
番頭兼イラストレーターだった頃は、銭湯が中心の生活だったから、ひとりの時間がなかったんです。食事はいつも外食で、洗濯物もコインランドリーでした。そんな生活も楽しかったんですが、じっくり自分の声を聴く時間はほぼゼロで。
でも、休職してからは、家で絵を描きながら自分と話す時間がすごく長くなったんです。独立した今では、3日間誰とも口をきかないこともよくあります。そんな生活が苦な人もいると思うんですが、私はむしろ楽しいんでよね。
自分の声を聴く時間を持てるようになったら、いろんなことが変わった気がします。今ではメディアで紹介される自分と、普段の自分が、だいぶ重なるようになってきたんですよ。