イーロン・マスクの思考を生んだ幼少期の愛読本 ブッ飛んだ未来像を描ける人になるための手法

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「SF格差」がわかりやすく可視化されているのが、テスラvsトヨタです。2020年7月、アメリカのEVメーカー、テスラの時価総額がトヨタ自動車を抜いて自動車メーカーの世界首位に躍り出たというニュースが話題になりました。日本経済新聞はこの理由を「ESG投資の広がりを追い風に、テスラの株価は過去1年で5倍近くに伸び」、「将来の成長への期待が株式市場の評価につながっている」と報じています。

トヨタが首位陥落! などと表現するとショッキングですが、目の前の現実を見れば、トヨタはまだまだ圧倒的に強いのです。2021年度のトヨタの販売台数実績は約951万台。対するテスラは約94万台で、軽く10倍以上の差をつけています。テスラの自動車にはたびたび不具合も発生しており、モノとしての問題点や脆弱性も指摘されています。にもかかわらず、テスラは巨額の資金を調達し続け、 EVをものすごい勢いで社会に普及させてきました。そして、トヨタを凌駕する「時価」を獲得するに至りました。実はこのパワーの源泉が、SFなのです。

SF格差を加速させる「SF投資」

テスラCEOのイーロン・マスクは、卓越したSFの使い手です。マスクは子どもの頃から1日10時間もSFを読んでいた、というのはアメリカでは有名な話です。アイザック・アシモフによるSF大長編『銀河帝国興亡史(ファウンデーション)』シリーズをはじめ、月が地球の植民地となった未来を舞台にしたロバート・A ・ハインラインの『月は無慈悲な夜の女王』、ダグラス・アダムスのドタバタ宇宙コメディ『銀河ヒッチハイク・ガイド』などを愛読していたと、自らたびたび語っています。

マスクはこれまで、「人類の火星移住計画」「チューブ型の超高速道路」「脳にチップを埋め込んで電脳化」など、 SFを地で行く突飛な事業構想を次々にぶち上げて、世界をあっと驚かせてきました。それらを単なる大風呂敷で終わらせないのが彼のすごいところで、いずれも着実に人を巻き込み、資金を集め、事業化を進めています。

現実の延長線上にないアイデアを楽しみ、そこからあり得る未来の可能性を取り出して示し、実現の道すじを描く―― 。これぞSF思考の真骨頂です。抽象的なビジョンを、具体的なイメージをともなう「物語」として語り直すことは、機能や性能や根拠で補強されたロジックを並べるより、ずっと強く人々の心を動かします。そして、心だけでなく巨額の資金を動かすことも可能にします。実績でははるかにテスラを上回っているトヨタを、テスラが「企業価値」 で凌駕した理由のひとつは、間違いなくこのSF格差にあるといえます。

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