「ルフィ」強盗事件、「悪党の天国」にしたのは誰か 上から目線でフィリピンを指弾するのはたやすいが

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日本がらみの事件の多さについては、航空機で4時間足らずという距離の近さが大きな要因だ。さらにマニラ首都圏には日本人相手のカラオケや日本食店も多く、日本帰りで日本語をしゃべる人たちも歓楽街にたむろする。悪徳警官や収賄看守らの存在も含めて逃亡先としてのインフラが整っている。

これまでも多くの事件が日本で大々的に報道され、犯罪や逃亡先の「メッカ」としてのイメージが次の犯罪を呼び込んでいる面もある。1981年の旧・三和銀行茨木支店で女性行員が架空口座に1億8000万円を入金して横領後、マニラに逃亡した。

1986年には三井物産マニラ支店長が誘拐され多額の身代金が要求された。1995年の偽装水死保険金詐欺事件、1997年の錢高組の所長が誘拐された事件なども耳目を集めた。日本人が被害者となった保険金殺人なら何件もあった。

日本とフィリピンの間で犯罪者引き渡し条約は結ばれていない。そのため、日本政府から引き渡しの要請があれば、その都度フィリピン政府が判断する。

マルコス大統領の訪日にらみ

フィリピンにとって日本は最大の援助国だ。中国などと比べて、援助に関する条件も寛容だ。両国間に大きな懸案もなく、フィリピン政府は日本政府の要請があれば大方は聞きいれる。容疑者引き渡しでも概して協力的といえる。

しかしながら、刑務所や拘置所側の事情もある。金を持つ容疑者や被告から賄賂を受け取っている刑務官や拘置所職員、その上司らからすれば金づるを失いたくない。そうした中で早期送還が実現するかどうかは、日本側の働きかけ次第となる。

今回の4人について、日本の警察はかねて強制送還を要請していた。渡辺容疑者は2021年5月17日にマニラ首都圏パサイ市のホテルで国際手配犯として拘束され、9日後に強制送還が命じられた。ところが、女性・児童に対する暴力防止法違反の罪で起訴されていることが判明し、送還が延期されていた。

他に日本で逮捕状が出ている3人の日本人も、それぞれ現地の刑事事件で起訴されたため、収容が続いている。

日本でニュースが弾けて以降、送還へ向けた動きが急にスピードアップしたのは、2023年2月8日からマルコス大統領が日本を公式訪問するタイミングと重なったからだ。

収容所では金次第で自由が買えて、そこから犯罪が行われていたという「国の恥」が連日報道される中で、国家元首である大統領が訪日するのはフィリピン側はもとより日本政府にとってもいかにも間が悪い。ということで、送還協議が急速に進んだ。

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