「ルフィ」強盗事件、「悪党の天国」にしたのは誰か 上から目線でフィリピンを指弾するのはたやすいが

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確かに、刑事司法がこの国でまっとうに機能しているとはいいがたい。1990年代半ばに私がマニラに駐在していたころ、刑務所や入管施設を取材した。収容されている日本人から支局に電話がかかってくることもあった。アジア太平洋戦争の戦犯として山下奉文将軍らが処刑され、BC級戦犯が長く収監されていたことでも有名なニュービリビッド刑務所(モンテンルパ刑務所)からの電話が多かった。

「面白い話があるからちょっと顔出さない」と言って、日本人受刑者が持ち掛けてくる。残留日本兵がどこそこで生きている、日本人の殺人事件の犯人を知っている、山下将軍が残したとされる「山下財宝」の地図を持っている――。こんな与太話がほとんどだ。面会ではお土産を要求されるのがつねだった。

機能不全のフィリピン司法

暇なときに刑務所に出向くと、私たち記者に限らず、受刑者の家族から売春婦までかなり自由に出入りしていた。当時も個室やエアコン、冷蔵庫を持つ囚人がいた。日本人死刑囚が刑務所内で現地の女性と知り合い、結婚した例もあった。看守を買収したり、なかには定期的に「手当」を払って部下のように使ったりしている「大物」受刑者もしていた。

私がそうであったように、初めてやってきた記者はその有様に驚き、「とんでもないこと」をレポートするが、収容施設の風紀は昔からほとんど変わっていない。今回の目新しさは「携帯電話で日本へ指示」というところだ。

このモンテンルパ刑務所が麻薬取引の国内の中心であるということは、フィリピン人の間ではなかば常識である。

所管する司法省は暴動などが起きたときだけ、通り一遍の対処をするが、本格的にメスを入れたことはない。定員の4倍とされる3万人近くが収容されており、数のうえでは囚人が看守を圧倒しているという説明もされるが、日本人には不思議なことだ。

看守で足りなければ、警察や軍を動員して一挙に内部を捜索し、個室や不要な設備などを一掃し、薬物や銃器を押収すればよさそうなものだが、「麻薬撲滅戦争」に力を入れた強面のドゥテルテ前大統領も手をつけなかった。

そのモンテンルパ刑務所が3カ月ほど前にも、地元で大きなニュースとなった。

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