毎日フラッシュバックする「宗教虐待」の心の傷 宗教2世を苦しめ続ける「時間の献金」と体罰

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ーー家庭によって2世問題には濃淡があるということですね。ただ、個々の家庭や世代の問題として片付けてよいのでしょうか。例えば「昔は体罰なんて当たり前だった」という世代の親はムチでたたくことに抵抗がありません。

その頃の日本では体罰なんて日常的だったと指摘する人は確かにいます。しかし、その時代の社会通念に基づいた言動の矯正のための体罰と、宗教的教義に支配されマインドコントロールされた状態で使われる「ムチ」は質が異なります。もちろん、宗教に関連しない体罰も現在の日本では否定されてしかるべきですが。

「子どもの人権」を優先すべき

ただ、教団側が反省するというのは難しいのではないでしょうか。自分たちの間違いを認めると求心力が落ちてしまいますから。毎日新聞(11月8日付)によると、教団側は「(教育の)方法は各家庭で決めることだが、体罰をしていた親がいたとすれば残念なことだ」として、ムチに関して各家庭レベルで誤解に基づいた行きすぎがあったとする回答をしています。

横道 誠(よこみち・まこと) 1979年大阪市生まれ。京都府立大学文学部准教授。京都大学大学院人間・環境学研究科研究指導認定退学。文学博士。専門は文学・当事者研究。宗教2世以外にも発達障害など、当事者による自助グループを主宰。新刊に『信仰から解放されない子どもたち』(編著)

教義として浸透させていたにもかかわらず、各家庭の責任にされたことは、被害を受けたエホバ2世たちの怒りを増幅させています。家庭や個人に責任を押し付ける考えは、「献金は信者が自主的に行った」とする統一教会の理屈と同じです。

政府は今、統一教会を念頭に置いた法規制に動いていますが、宗教2世問題は統一教会だけの問題ではありません。全体の議論が進んでいないのです。私はそこに不安を感じています。

「信教の自由」という言葉を隠れ蓑にする教団が多いですが、「子どもの人権」は、親が子どもに信仰を強制する「信教の自由」よりも上位に位置づけられるはずです。そのことを専門家も非専門家も認識し、議論し、社会を変えていくための土壌を肥やしてほしいと願います。

井艸 恵美 東洋経済 記者

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いぐさ えみ / Emi Igusa

群馬県生まれ。上智大学大学院文学研究科修了。実用ムック編集などを経て、2018年に東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部を経て2020年から調査報道部記者。

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