その後、20年ほどの間に、オフィスのデザインは大きく変わり、大部屋形式を採用する企業が増えた。この潮流を生む一因になったのは、組織のあり方の変化だった。知識労働者の重要性が増し、部署横断型のチームがつくられることが多くなった。
大部屋形式のオフィスが増え始めると、社員1人当たりのスペースは狭まった。2010年、アメリカの会社員が与えられていたオフィススペースは平均18.5平方メートルほどだったが、2017年にはそれが12平方メートルに減っている。多くの人は、パーソナルスペースの侵害に対処するために、ヘッドフォンを着用して音のバリアを張るようになった。
オフィス内には「偶然の出会い」がある
ハーバード・ビジネス・スクールのイーサン・バーンスタインとヒューマニーズ社のベン・ウェーバー社長が2019年に行った研究では、スマートフォンとセンサーを使って、オフィスにおける対面のコミュニケーションとデジタルテクノロジーによるコミュニケーションについて調べた。調査対象は「フォーチュン500」に名を連ねる2つの大企業だ。
結果は、「大部屋に移行すると、対面のやりとりはおおよそ70%減った。一方、それを埋め合わせるように、電子機器を使ったやりとりが増加した」とのことだった。バーチャル空間は、物理的なオフィスを補完するというより、そこから逃げ出すための場として機能している。
デジタルテクノロジーによるコラボレーションツールを導入した結果、オフィスに出勤しても同僚とほとんど直接言葉を交わさず、1日中オンラインで作業するようなケースは、コロナ前からすでに見られていた。
人々が望むような完璧なオフィスをつくるには、どうすればいいのか。建築設計大手アラップはオーストラリアのメルボルン事務所で、協力を促進するためのオフィスデザインを意識的に採用した。「みんなが集まる共有スペースの役割は今後もなくならない」と、幹部のジェニ・エメリーは私に語っている。
「今までオフィスは工場のような場所でした。産業革命の最後の残滓と言ってもいいでしょう。そのような発想を捨てなくてはなりません。コミュニティーを強化し、コラボレーションを促進する場所と位置づけるべきです。アラップでは、人的ネットワークとコラボレーションを意識してオフィスをデザインしています」
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