アラップの特徴的なメルボルン事務所をデザインしたチームの一員であるジョー・コレンザの言葉にも、同様の発想が見て取れる。世界屈指の建築設計会社であるアラップの本社には、「偶然の出会い」の場がつくり出されている。見晴らしがよく、広い階段と木のフローリングが採用されたオフィスは、「デザイナーと設計士とエンジニアが触れ合うことができる」場になっている。
取引先企業もオフィス内のカフェを利用
オフィスデザインをしたチームの一員であるジョー・コレンザは、私にこう語った。
「個人用のスペースを減らし、コラボレーションに役立つ場を増やしたのです。大きなテーブルやホワイトボードを設置しました」
どれくらい円滑に知識の共有が進むかは、メンバー同士の関わり方に加えて、メンバー同士の物理的な距離にも大きく左右される。オフィスで誰と誰が隣に座るか、誰と誰が近い場所で働くかにも影響を受ける。
アラップのメルボルン事務所では、4カ月おきに各チームが働く場所をオフィス内で移動させている。それまでとは異なるチームと隣り合って働くようにすることが狙いだ。コレンザはこう語っている。
「ほかのチームの人たちが話すのを聞いたり、働く様子を見たりする絶好の機会が生まれました。物理的な距離の近さは、人間関係を育む強力な要素になるのです」
アラップはメルボルン事務所に、さまざまな活動を引きつける磁石のような機能を持たせている。多様なイベントを開催して、地域コミュニティーの人々が集まれるようになっている。
納入業者や取引先企業の人たちもオフィス内のカフェを利用したり、デスクを利用したりできる。オフィスでは業界のイベントも開催し、最初の1年間で140回以上のイベントを行い、週当たり200人を超す人たちがオフィスを訪れたという。
このオフィスは、パートナー企業との協力関係を育む「触媒」の機能も果たしている。コレンザは「私たちのオフィスは、パートナー企業の人たちも歓迎しています」と語っている。
オフィスはさまざまな性格を持った場だが、ほとんどの人にとっては、何よりも「ほかの人たちとつながる場」という性格が強い。みんなが同じ場所で働くオフィスは、人と人がつながるのに打ってつけの場所だ。
オフィスでは、同じグループのメンバーが互いのことをよく知っていて、1人ひとりの暗黙知をみんなで活用しやすい。計画的に意見交換することを通じて、多様な経験や視点を統合することによる探索も実践できる。
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