下ネタ多めとの評「源氏物語」実際はだいぶ違う訳 紫式部の筆が乗るのは「翌朝」以降を描くとき

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しかし『源氏物語』の光源氏から藤壺の宮への恋の様子を見ていると、なんだか地に足ついてなくて、相手を理想化しすぎていて、笑ってしまう。今風に言えば……源氏が藤壺を「推している」という言葉が最もしっくりくる様子なのだ。ちょっとやみくもに恋しすぎていて、源氏が心配になってくるほどだ。

<原文>
藤壺の宮、悩みたまふことありて、まかでたまへり。上のおぼつかながり嘆ききこえたまふ御気色も、いといとほしう見たてまつりながら、かかる折だにと心もあくがれ惑ひて、いづくにもいづくにもまうでたまはず、内裏にても里にても、昼はつれづれと眺め暮らして、暮るれば王命婦を責め歩きたまふ。

※以下原文はすべて『新編 日本古典文学全集20・源氏物語(1)』(阿部秋生・秋山虔・今井源衛・鈴木日出男訳注、小学館、1994年)

<意訳>藤壺の宮はご病気のため、宮中から実家に退去された。主上(桐壺帝)がものすごく心配しているのを見て、光源氏はドンマイと思いつつ、「あの方が宮中から出るタイミングなんて、めったにない……!!」と浮かれていた。

どこにも出かけず、宮中の宿直所にいても二条の院にいても昼間はぼうっとする。そして夕暮れになると、王命婦(藤壺の侍女)に「藤壺様に会わせてくれ、頼むっ」と頼み込む――そんな日々を送っていた。

10代の恋愛浮かれボーイだった光源氏

藤壺の宮が病気になって実家に帰っているところを、「チャンス! 会えるかも!」としか思わないあたり、10代の恋愛浮かれボーイとしか言いようがない。

まあ10代男子なんて、いくら絶世の美男子といえどそんなもんだよね……と思いつつ、「お願いだ。オフの藤壺様に会わせてくれ」と頼まれる命婦はたまったもんじゃない。どんな下心があるかは見え見えで、そんな危険な橋渡らせないでくれ、とげんなりする命婦の顔が見えるようである。

光源氏の様子を見ていると「自分の地元にあこがれのアイドルがやってくるから、どうにかしてアイドルの休日に押しかけて会いたいオタク」のようにも見えてくる。「片思いの相手に会いたい」というよりも、この懸想のテンションは「推しとつながりたい」という解釈のほうがしっくりくるのだ。

が、長らく「ただの推しとオタクの関係」だった光源氏と藤壺の宮は、うっかり一線を越えてしまう。そして藤壺の宮は、なんと光源氏の子を妊娠してしまったのである。

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