「スマホ断ちした高校生たち」に実際に起きたこと ニューヨークで始まった「ラッダイト運動」

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メンバーがカバンに入れて持ってきた本は、フョードル・ドストエフスキーの『罪と罰』、アート・スピーゲルマンの『マウスⅡ アウシュビッツを生きのびた父親の物語』、ボエティウスの『哲学の慰め』など。メンバーたちは、ハンター・S・トンプソンやジャック・ケルアックといった解放と自由の作家たちを英雄視し、カート・ヴォネガットの『プレイヤー・ピアノ』のようにテクノロジーに批判的な作品を好んでいる。公共放送PBSのメガネをかけたツチブタのアーサーがクラブのマスコットだ。

スマホの代わりに本をよく読むようになったという(Scott Rossi/The New York Times)

SNSやスマホは本当の人生じゃない

「メンバーの多くが『荒野へ』という本を読んだことがある」と、エセックス・ストリート・アカデミー最終学年のローラ・シャブは言う。『荒野へ』はジョン・クラカワーによる1996年のノンフィクション作品。放浪の末、アラスカの荒野で自給自足の生活に挑戦しながら亡くなったクリス・マッカンドレスを描いている。

「メンバーはみんな、ひたすら建物の中で仕事をすることだけが人生だとは考えていない。『荒野へ』の主人公は自分の人生を生きていた。自分の本当の人生を。ソーシャルメディアやスマホは本当の人生じゃない」

「ケータイをガラケーに変えたら、いろいろな変化をすぐに感じられた」と、ローラは続ける。「自分の脳みそを使うようになった。自分を1人の人間として客観視できるようになった。本を書くことにも挑戦するようになった。今は12ページくらいになっている」。

クラブのメンバーたちは、彼らのラッダイト運動の広まり具合を簡単に話し合った。オディールと同じマロー高校で学ぶローガン・レーンが2021年に始めたラッダイト・クラブの名称は、18世紀イギリスで機械化された織機を破壊し、機械打ち壊し運動をほかの労働者にも広めたと伝えられる織物工、ネッド・ラッドに由来する。

「この前、ビーコンで行ったラッダイトのミーティングが初めてうまくいった」。そう話すのは、マンハッタンにあるビーコン高校の最高学年、ビルク・ワトリングだ。ワトリングが使っているのは緑色にペイントされたガラケーで、そのガラケーにはフージーズ時代のローリン・ヒルの写真が貼られていた。

「ブルックリン実業高等学校でも(ラッダイト運動が)広がってきているって聞いた」と、ほかのメンバー。

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