当日は3Dフードプリンターでシュークリームのシュー生地や、ラングドシャのクッキー生地を幾何学模様に絞り込んで焼いた飾りを作り、盛り付けに華やかさを添えた。3Dフードプリンターではペースト状の食材を機械にセットし、3次元データに基づいてプリンターを動かしながら層を積み上げて造形する。
3Dフードプリンターをどのように活用すればいいか。この道具の特性をつかむために、山口歯科医師と加藤シェフは何度も試作品を作って検討した。3Dフードプリンターで造形物を作るためには時間がかかり、食材が変色する可能性がある。このため、今回は料理を引き立て、食べる方に楽しんでいただける「飾り」を作ることにしたという。
試作の結果、3Dフードプリンターにセットする食材の製造工程に手間がかかるため、施設の厨房で準備することには難しさが残った。その点について、山口歯科医師は 「メーカーが食材の既製品を販売してくだされば利便性が高まるのですが」とも、社会に提案する。
認知症の人にこそ食感を
山口歯科医師と加藤シェフの挑戦に会場となる施設を提供し、入居者に参加を呼びかけたのは、玉木一弘理事長(併設の福生クリニック院長兼任、68歳)だった 。90年代から施設で介護サービスを提供し、西多摩地域の医療・介護専門職に摂食嚥下機能障害(摂食とは食べ物を目で見て、食べる行為を意識すること)に関する研究や勉強会を繰り返してきた。玉木理事長はこう説明する。
「私たち人間は、もともと個食・孤食(1人で食事をすること)でなく、大勢で五感を使って、ワイワイとて食べ物を分け合いながらテーブルを囲んできました。また、離乳食のときから家族の声とともに食べる体験を通して、食事の概念を作り出して記憶してきました。咀嚼や嚥下には、こうした記憶による食事の概念が必要になります」
認知症になると五感の記憶、例えば「(目の前の)この食べ物は何だろう」「どんなにおいの食べ物だったか」「舌触りはどうだったか」「どのように食べればいいだろう」といったことが失われやすく、食事が進まなくなる。口元にスプーンを持っていっても、口を開けないことがある。玉木理事長が続ける。
「とくに、嚥下食は見た目や舌触り、味が五感の記憶と合致しなくなります。このため、嚥下時の安全性を確保したうえで、できるだけ常食に近い食形態で提供したほうが、認知症の方は食べ物を認識しやすくなります。そこで、これらの感覚を呼び起こす機会としたいため、山口歯科医師の夕食会の企画に賛同しました」
「食べる」機能が低下して困りごとが出てきても、こうして「障害の社会モデル(障害は個人でなく、社会環境にあること。連載第1回記事参照)」によって、日常生活でのバリアをなくすことはできる。それは、今回のような人々のさまざまな挑戦によって、社会が大きく変わっていく。
*1 「高齢者の摂食嚥下・栄養に関する地域包括的ケアについての研究」ホームページはこちら
*2 Maison HANZOYA スラージュはこちら
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