見た目は高級フレンチ、実は「介護食」驚きの正体 「味にも食感にもこだわる」歯科医師らの挑戦

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そんなとき、山口歯科医師はフレンチ創作料理レストランMaison HANZOYA(横浜市 *2)の加藤英二シェフ(52)と出会った。加藤シェフは「スラージュ」と名付けた介護食をフルコースで提供している。スラージュは加藤シェフの造語で、フランス語では「ホッとする」「優しい」、ヒンドゥー語では「太陽」という意味がある。

加藤シェフが介護食を知ったのは、東日本大震災で被災地支援で東北へ通ったときだった。ある歯科医師から「フレンチの調理技法は介護食に活用できるのではないか」と言われた。その歯科医師に誘われ、加藤シェフは専門家とメーカーの介護食作りの経験を積むことで手応えをつかみ、3年後から、自社レストランのメニューに加えるようになった。

フレンチと介護食は相性がいい

加藤シェフは、こう話す。「フランス料理のピュレ、ジュレ、ムースなどの特徴的な調理技術と理論をそのまま活用することで、食べやすさだけでなく、食感、香り、味わいなどのテクスチャーを表現できます。このため、お客様には嚥下障害の有無を問わず同じ料理を提供し、楽しんでいただいています」。

山口歯科医師は加藤シェフとの出会いを通して、摂食嚥下障害のある人にも、特別な日のワクワク、ドキドキした食事の機会を持ってほしいと考えるようになった。食事には栄養学的な側面だけでなく、食べるときの楽しみや驚き、一緒にテーブルを囲む人と心弾ませるコミュニケーションを作り出す側面もあるからだ。

そこで、山口歯科医師は総務省の戦略的情報通信研究開発推進事業(独創的な人向け特別枠)「異能vation」プログラムの「破壊的挑戦部門」に応募した。挑戦課題名は「介護施設で堪能、フレンチフルコース -3Dフードプリンターで実現する食のダイバーシティ-」。山口歯科医師は挑戦者となり、加藤シェフと共同開発したフレンチ料理のフルコースを、介護老人保健施設「菜の花(医療法人幹人会・東京都西多摩郡)」に入所する有志に提供する夕食会を企画することになった。

夕食会当日、施設の食堂は照明を少し落として電球が飾り付けられ、天井には日本庭園と紅葉の風景を映した動画が映し出された。テーブルにはクロスがかけられ、キャンドルには温かい火が灯された。アベマリアのゆったりとした曲が流れるなか、胸にバラのコサージュを着けた参加者がスタッフのエスコートを受けて着席した。

食堂
天井には風景が投影され、ちょっと旅行気分も(写真:オカダキサラさん提供)
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