前菜がテーブルに運ばれたときには、まだ「何が起きるのだろう」と、参加者は緊張している様子だった。が、とろみをつけたノンアルコールのロゼシャンパンがグラスに注がれると、みな、表情をほころばせた。
参加した6人は、嚥下障害のない人が2人、嚥下障害があるためきざみ食(食材を包丁で細かく刻んだ料理)を食べている人が3人、ペースト食(おもゆ粥状で、スプーンですくって食べる料理)を食べているが1人だった。認知症の症状が進行している人もいた。
小甘鯛の料理「とろけるよう」
料理のメニューは、前菜が「フォアグラのポワレ フルーツコーンのトリュフ風味」、魚料理が「小甘鯛の冷温調理 甲殻類のエキューム」、肉料理が「牛頬肉の赤ワイン煮 トリュフとジャガイモのピュレ添え」、デザートが「白桃のムースとラベンダーのアイス添え」。
テーブルに料理が1品ずつ運ばれると、参加者からは「うわー、すごい!」「お料理がキレイ」と歓声が上がった。小甘鯛は片手でスーッとスプーンを差せるほど柔らかく、「とろけるよう」「すごく、おいしいですね」と、会話がいっそう盛り上がった。
加藤シェフは、数日間かけてレストランで仕込んだ料理を、施設の厨房で盛り付けた。
牛頬肉の赤ワイン煮は2週間前から調味液に漬け込み、圧力鍋に1時間かけたあと、さらに赤ワインとフォンドヴォー(仔牛の骨のだし)と自家製ベーコンを加えたなかで30分間煮込んだ。デザートの白桃のムースとラベンダーのアイスクリームには、口の中でパチパチと弾ける食感を楽しんでもらいたいと、あえてペタセタキャンディ粒(キャンディと炭酸のお菓子)を加えた。
加藤シェフはこう話す。「最近は、予約時にお客様から『アレルギーがありまして』など、食材に関するご要望をいただくことがあります。咀嚼や嚥下についても『不安がある』『とろみ剤を持っていってもいいか』などが自然に言える、店側からもお客様にその点を確認する、そういう流れができるといいですね」。
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