「奨学金1200万円」の36歳、JASSOとの裁判の結末 奨学金を返したいのに返せない人が生まれる訳

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また、予約制でもいいから実際に足を運べる窓口を作って、直接話ができるようにして、それぞれに担当者がつくようにしてほしいです。

現状では、JASSOに相談したいと思っても、連絡を取るのすら難しく、たらい回しにされるだけですからね。決して小さくないお金を貸している以上、借りる側の『自己責任』にせず、できる範囲の工夫はしていくべきだと感じます」

日本の奨学金制度の問題点

前後編にわたって報じてきたが、日本の奨学金制度は、よく出来た制度である反面、柔軟性に欠けているのも事実だ。吉崎さんの話から指摘できるのは、以下のような問題点だろう。

《前提》
・JASSOの場合、奨学金返済は最長20年(240回)である。繰上返済はできるが、等分が基本線になっているため、猶予や減免のハードルが高く、柔軟な返済が難しい
《問題点》
・その結果、就職から半年経過時点で「貸与額を240で割った金額」を毎月きっちり払っていく必要がある(※返還回数は貸与額によって変わる)
・その一方で、多くの企業で新卒~新卒から数年間は給与が低めに抑えられている現実がある。このため、貸与額の多い人(理系や院卒など)は、いずれ高給取りになることが予想されていても、最初の数年間は負担が大きくなりやすい
奨学金借りたら人生こうなった
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20年という長期で返済できるのは良い点だが、一方で「等分ありき」なのも事実。たとえば文系の4大卒と、理系の院卒では貸与額が異なるため、返済の大変さの温度感がかなり変わってくるが、そこは考慮されない(「新卒等」という事由で猶予・減額申請をすることは可能だが)。

また、そもそも猶予・減免の条件が厳しいという指摘もできる。休職中の人にはありがたい制度だろうが、少なくない会社員は猶予も減額もハードルが高い。実際、本連載には猶予制度を利用した人が過去何度か登場しているが、「社会人になって以降に大学院等に再入学した人」が多い。

もし、吉崎さんが「社員寮のある会社」だったら話はまた違ったかもしれないが(家賃の支払いは奨学金返済に大きく影響する)、個々のラッキーに運を委ねるのは制度として不健全だろう。

吉崎さんに対し、「自己責任だ」「そういうルールだ」「就職してすぐに結婚するな」「子どもを作るな」などと非難するのは簡単だ。だが、そのような批判は、何も生まないどころか、下の世代を苦しめる場合すらある。

「返したいと思っている人に、柔軟に返させてあげるための改革」が進むことを願うとともに、奨学金を借りている大学生には、簡単ではないかもしれないが、上記のような観点も頭に入れたうえで、返済計画を立てることをオススメしたい。

本連載「奨学金借りたら人生こうなった」では、奨学金を返済している/返済した方からの体験談をお待ちしております。お申し込みはこちらのフォームよりお願いします。奨学金を借りている/給付を受けている最中の現役の学生の方からの応募や、大学で奨学金に関する業務に関わっていた方からの取材依頼も歓迎します。
千駄木 雄大 編集者/ライター

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せんだぎ・ゆうだい / Yudai Sendagi

編集者/ライター。1993年、福岡県生まれ。奨学金、ジャズのほか、アルコール依存症に苦しんだ経験をもとにストロング系飲料についても執筆活動中。奨学金では識者として、「Abema Prime」に出演。著書に『奨学金、借りたら人生こうなった』(扶桑社新書)。原作に『奨学金借りたら人生こうなる!?~なぜか奨学生が集まるミナミ荘~』がある。

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