「古文・漢文不要論争」が毎年こうも白熱する背景 「入試に役立つ」と答える国語教員の無防備さ

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――これまでの学校の古典教育に問題があったことも事実です。先生がひたすら作品の解説を黒板に書く「訓詁注釈」の授業は、いまだに残っています。

従来の古典教育には、2つの問題があると感じている。

1つが、文法をやりすぎている点。文章を正確に理解するには文法の知識が必要だが、「已然形+ば」と「未然形+ば」の違いがわかったり、「ぬ」の識別ができていたりすれば、あとはどんどん実際の文章を読んでいくことで自然に理解できるようになる。

にもかかわらず、高校で古典文法を細かく教え込むのは、入試の得点源になっているから。「テストに出るから勉強しろよ」ということだ。

2つ目が、名作鑑賞に終始しており、こと平安文学を重視し過ぎている。もう少し明確にいえば、『源氏物語』を読むことが最終目的としてあって、そのために文法の学習なども体系づけられている。だから、『源氏』の山に登るための入門編として、平安文学や中世の説話文学などはマニアックな作品まで学ぶ。時代ごとのバランスが悪い。

平安文学の名作を正確に訳す力も大切かもしれないが、江戸から明治までの平易な古文をざっと読み進められる訓練も必要だろう。それこそ、福澤諭吉の『学問のすめ』をスラスラ読めるような力だ。

細かすぎる知識は必要ない

――学校を卒業したら、体系的に古典に触れる機会は減ります。会社員は、古典とどう付き合っていくのがいいのでしょうか。

実は、今のビジネスパーソンはそこまで「古典は不要だ」とドライになっていない。これは少し安心しているところだ。私が『親孝行の日本史』という新書を出したときも、日本経済新聞の書評欄に載ったあとにいちばん反響があった。

ビジネスパーソンに身につけてほしいのは、「これが古典の名作です」といわれたものをただ読むのではなく、その一歩先に行って自分の古典を探し出す力だ。

たとえば、今は国会図書館のホームページで検索すれば江戸から明治期の膨大な文献に無料でアクセスすることができる。それこそ、iPadでも気軽に古典が読める時代になった。そこに分け入っていくうえでは自分で作品と出会うリテラシー、そして書いてあることが理解できるリテラシーが必要になってくる。細かすぎる古典の知識はそこまで必要ない。

印南 志帆 東洋経済 記者

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いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界の担当記者、東洋経済オンライン編集部、電機、ゲーム業界担当記者などを経て、現在は『週刊東洋経済』や東洋経済オンラインの編集を担当。過去に手がけた特集に「会社とジェンダー」「ソニー 掛け算の経営」「EV産業革命」などがある。保育・介護業界の担当記者。大学時代に日本古代史を研究していたことから歴史は大好物。1児の親。

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