「フリーアドレス」見えてきた弱点と突破する方法 「コスト」「環境」「働きやすさ」「会社文化」の交錯

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池田:集中作業をしたいとき、リモートワーク用の個室のような、完全に遮断された場所のほうがよい人と、まわりの様子がうかがえる半個室のほうがよい人がいます。

私自身は、完全に囲われているとダメで、カフェのようにざわざわとしていて、人の往来がある場所のほうが集中できますね。

川口:ファミレスで受験勉強した記憶のある方には、通じる感覚かもしれません。

池田:人によって集中できる環境は違いますよね。同じ人でも、体調やその日の気持ちによって変わることもあります。いろんな状況を用意して選べるようにすることが大切です。

企業にとっての「最適なオフィス」を探る

池田:その人、そのチーム、その企業によって文化の違いもありますし、最適解はありません。自分たちが何を大事にしていて、何を目指し、どんな働き方をしたいのかを解き明かして、初めて適した空間が作れるとも思います。

川口:ハイブリッドワークの課題は見えてきて、フリーアドレス型のオフィスのほうが良いというトレンドはありますが、『リデザイン・ワーク 新しい働き方』にも書かれているように、そうは言っても、経営陣にとっては譲れない線というものがあります。

企業理念、経営方針、現場の働き方、それぞれ目指したいところや課題も違いますから、弊社では、経営層、マネージャー層、現場の3層に分けてお話をうかがうことが多いですね。

それらを掛け合わせて1つの解を提案する。みなさんが作り上げているところに、そっと手を添えるという感覚でいるというのが、オカムラのオフィスの作り方です。

コロナの2年間で、考え方を見直しながらも、自分たちらしさを実現しようと考えている企業は、うまく対応できていると感じます。しかし、以前の働き方から逸脱できないまま、やり方だけ変えてしまうと違和感が残りますね。

――変化に対応できた会社、できない会社の差は何でしょうか?

池田:フリーアドレスやABWは、空間の話です。それを変えても、働き方のルールが変わらなければうまくいきません。

働く中でも、人によってはかどる時間や快適さの感覚が違います。それがコロナによって一般によくわかってきました。

例えば、自宅で働くと、仕事の合間に家事や子供の世話が入ります。状況に合わせて、中抜けや時間単位の有休がとれるようにするなど、制度を融通してあげなければ、せっかく自宅で働いているのに、1人で長時間部屋に缶詰めになるということが起きてしまいます。

評価の制度も、出社していないと下がるということでは困ります。顔が見えないときの人事評価をどうするのか、上司と部下が評価を確認しあう機会をどう設定するのか。

それらをハイブリッドワークに合わせて変えていくことができれば、違和感を減らしていくことができるでしょう。(つづく)

(構成 泉美木蘭)

川口 健太 オカムラ働き方コンサルティングセンター所長

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かわぐち けんた / Kenta Kawaguchi

オフィス空間デザイナーとしてキャリアを積み、2014年よりオカムラ・タイのデザインマネジャーを経験。タイ人デザイナーを率いてバンコクの日系顧客中心に現地法人ならではのオフィス構築支援に携わる。2021年日本に帰国後はアジア各国のデザイン業務にかかわる傍ら、国と地域にとらわれない総合的な働き方に関する知見を集める。2022年より現職、より良い働き方の浸透に努める。

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池田 晃一 オカムラワークデザイン研究所チーフリサーチャー

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いけだ こういち / Koichi Ikeda

株式会社岡村製作所(現オカムラ)入社後、20年にわたって働き方の研究を続けている。専門はグループワーク分析、場所論。2012年からテレワークを含む「柔軟な働き方」の研究を主に担当。入社後、2007年から2010年まで東北大学大学院で学んだ経験を持つ(工学研究科博士後期課程修了)。また、2014年から1年間、サバティカル休暇を取得して東北大学大学院医学系研究科助教(広報・コミュニケーション担当)を務める。著書に『エシカルワークスタイル』『はたらく場所が人をつなぐ』がある。

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