「江沢民追悼」を中国政府が激しく警戒する事情 ネット上の何気ないコメントも検閲対象に

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「胡耀邦は死後に英雄的な殉教者と見なされるようになったが、生前にそのような評価を受けたことはない」。そう語るのは、ニュージーランドで中国研究を行っているジェレミー・バルメだ。

バルメは1989年に北京に滞在。民主化を求めて抗議する学生や住民に対し、軍が殺戮を繰り広げる直前に出国した経験を持つ。「過去を懐かしむムードが強まっている中、江沢民に関しても同じことが起きる可能性はある」。

11月下旬の週末には、上海、北京、成都をはじめとする中国の各都市に数百人から数千人のデモ参加者が集まり、異様な厳格さで強行される政府のゼロコロナ政策を非難する出来事があった。中には、この機に乗じて、民主化や言論の自由、検閲の撤廃を求める者もおり、習と中国共産党の退陣を求める声すら上がった。

胡耀邦、周恩来の死去と民衆蜂起の歴史

こうした抗議活動には、1989年の天安門デモを思わせるものがある。当時は、民主化運動に理解を示して権力の座を追われた改革派の元総書記・胡耀邦の死をきっかけに学生らが決起し、天安門広場を占拠。軍による武力弾圧という6月4日の天安門事件に至った。

指導者の死が抗議活動や反体制運動の引き金となった例はこれにとどまらず、中でも1976年の周恩来の死が大衆反乱に発展した事案(第1次天安門事件)は有名だ。

ただ、アメリカのシンクタンク「ジェームズタウン財団」の上級フェローで中国共産党の分析を手がけるウィリー・ラムは、習が強力な治安維持体制を築き上げていることを考えると1989年と同様の事態になる可能性は極めて低いと話す。「江沢民の死が中国政治に波紋を広げることはない」とラムは言った。

それでも習は、江の死が政治的な波紋とならないように追悼大会を取り仕切る必要がある。中国共産党は江の死を発表するにあたり、経済改革の推進や軍の現代化を中心にその業績を振り返って敬意を表する一方で、習の下で団結せよ、と国民に呼びかけることも忘れなかった。

江の追悼大会に関する発表では、中国共産党の慣例に従って外国の指導者は招かれない旨もアナウンスされた。

(執筆:Chris Buckley記者)
(C)2022 The New York Times

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