「江沢民追悼」を中国政府が激しく警戒する事情 ネット上の何気ないコメントも検閲対象に

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江の死去が伝えられると、ネット上ではほぼ瞬時に、国民から追悼の投稿が雪崩を打った。その中には、江の治世と、検閲と思想統制を異次元の厳しさに引き上げた習の独裁をそれほど包み隠すことなく比較し、両者の違いを皮肉るものも大量に含まれていた。

中国のソーシャルメディアサービス「微博(ウェイボー)」で行われたある投稿は、江が1998年にメガホンを使って救助隊に防潮壁を決壊させないように呼びかけた出来事に言及。当時の中国社会は「力強く前進し、活気にあふれ、歌を歌うような高揚感で新時代へと歩みを進めていた」とコメントした。

もっとも、ほかの多くのコメントは江をそこまで持ち上げるものではない。江は、指導者としての自らの政治生命がかかっている場合には、抑圧的な行動に出ることもあったからだ。

それでも国民はさまざまな理由から、江が総書記、国家主席、中央軍事委員会主席として権力を振るった1989〜2004年を、現在の習体制よりも好意的にとらえている。江の下で中国は天安門事件後の政治的停滞期を抜け出し、時に向こう見ずで汚染をまき散らすものであったとはいえ、長期にわたる目まぐるしい経済発展を成し遂げた。

中国共産党は当時も厳格な政治統制を行っていたが、人権派弁護士、民間の報道機関、反体制派の闘士、リベラルな思想を持つ学者が公の場で討論を行うことは許されていた。こうしたささやかな自由は、今の中国には存在しない。

当たり障りのない追悼コメントまで検閲

「ヒキガエルよ、私たちは以前、あなたを間違って非難した。最低の指導者だと考えていたが、実は最高の指導者だった」というコメントも見られた。ヒキガエルというのは、江の肥満気味の体型と大きな眼鏡にちなんだ愛称で、国民の間で広く使われている。

ほかには、1997年に当時の中国としては比較的際どいシーンが含まれていた映画『タイタニック』の上映が許され、レオナルド・ディカプリオとケイト・ウィンスレットの演技を楽しめたことを懐かしむコメントもあった。「さようなら、私たちにあの年『タイタニック』を見させてくれてありがとう」。江の死去を受けて投稿され、人気を集めたこのコメントにはこのようにつづられていた。

江の死去から数時間後には、ウェイボーで早くも検閲が始まり、関連の投稿が制限されるようになっていた。江の死は厳格なコロナ規制で国民の怒りが爆発したタイミングと重なったため、比較的無害な思い出話が習と中国共産党に対する厳しい批判に転化するのを防ぐ狙いがあるとみられる。上述の『タイタニック』に関するコメントは「いいね」を何万と集めた後、検閲によって削除された。

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