「魚が獲れない日本」を外国のせいにする人の盲点 漁業の歴史を知らないから他国を非難してしまう

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各国による乱獲で、世界的に有名な資源崩壊が起きたのが、東カナダ・グランドバンク漁場でのマダラ資源です。1992年に禁漁となり、いまだに回復待ちです。東カナダ沖の漁場は、200海里漁業専管水域が設定される以前は、カナダ船以外の漁船も、東カナダの漁場に入り乱れていました。

上のグラフのように急激に伸びた漁獲量は、1997年の200海里漁業専管水域の設定後、外国船の排除により大きく減少しました。その後、漁獲量は安定するはずでした。しかし結果は、その15年後に、禁漁に至る悲惨な事態となりました。マダラは主要魚種だったので、漁業、加工業をはじめ4万人以上が仕事を失いました。カナダ史上最大のレイオフ(一時解雇)と言われています。

この悲劇も自国の乱獲を棚に上げて外国を非難していたことから起きてしまいました。マダラ資源激減の反省からできたのが、国際的な水産エコラベルとして受け入れられている「MSC認証」のマークなのです。

イカを乱獲して他国に脅威を与えたこの国は?

もともとイカ漁で脅威だった国はどこか?(写真:筆者撮影)

ある国のイカ漁が新聞記事になっていました。

「地元に脅威〇〇イカ船団」「略奪に渦巻く非難」「根こそぎ包囲網に不安」「反感抑え紳士的警告」「ナイター並みの照明」「乱獲の反省と節度」「進出2年でもう不漁」「獲り過ぎかなと漁労長」

この記事の◯◯は、どこの国のことでしょうか? おそらく近隣の国々のことだと思う人が多いことでしょう。しかしながら、その〇〇に当てはまるのは「日本」なのです。ニュージーランド沖での日本のイカ漁に関する1974年の朝日新聞の記事でした。当時はまだ200海里漁業専管水域の設定前でした。このため、日本漁船は12マイルもしくはそれ以内の好漁場に入って漁ができたのです。

国際的な視点で漁業を見ると、国が変わるだけで、まさに「歴史は繰り返す」なのです。漁業の歴史を知らずに、外国が悪いと考えている人が少なくないのは残念なことです。しかし歴史を学べば唖然とすることでしょう。

水産資源を回復させるためには、歴史に学び安易な他国の非難はやめることです。そして科学的根拠に基づく資源管理を行うことです。他国で資源崩壊したケースも参考にして、国際的な枠組みを早急につくることが待望されます。

片野 歩 Fisk Japan

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かたの あゆむ / Ayumu Katano

早稲田大学卒。Youtube「おさかな研究所」発信。2022年東洋経済オンラインでニューウェーブ賞受賞。2015年水産物の持続可能性(サスティナビリティー)を議論する国際会議シーフードサミットで日本人初の最優秀賞を政策提言(Advocacy)部門で受賞。長年北欧を主体とした水産物の買付業務に携わる。特に世界第2位の輸出国であるノルウェーには、20年以上毎年訪問を続けてきた。著書に『日本の水産資源管理』(慶應義塾大学出版会)他。

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