どこまでもマニュアル尽くしである。ただ全国すべての店舗で同一水準かつ衛生的なサービスを提供するためには、これくらい細かなルールも必要なのだろう。しかし、問題は、こうした始業前の準備作業が労働時間とみなされず、賃金が支払われてこなかったことだ。アルバイトたちがタイムカードを打刻するのは、一連の作業を終えた後と決められているという。
マサミチさんによると、手洗いからノート確認までにかかる時間は15分ほど。「新商品の多い日などはノートの項目が10個以上になることもあり、年配の方とかになると覚えるのに30分近くかかる人もいます」。
レシピなどを覚えきれないアルバイトが勤務終わりに、ノートにメモをする姿を見かけたこともあったという。もちろんその間も時給は発生しない。
5分未満の労働時間が切り捨てられていた
問題はほかにもあった。
最大の問題は、5分未満の労働時間が切り捨てられていたことだ。労働基準法は、賃金は原則1分単位で計算するよう定めており、5分単位の計算は違法である可能性が高い。
また、制服の一部も自腹。店舗によって違いはあるものの、アルバイトたちは会社が指定した業者から制服を買わなければならない。マサミチさんはズボンと安全靴を購入したところ、5000円ほどかかった。
加えて店舗は慢性的な人手不足。本来の配置人員の半数ほどしかいないこともあるという。アルバイトたちはそれぞれ「仕込み」や「握り」「洗浄」「ホール」といったポジションを担当するが、混み合ってくると複数のポジションを掛け持ちしなければならない。厨房での「仕込み」を担当するマサミチさんも握りを手伝ったり、客席に出張って皿を片づけたりする。
マサミチさんは「急いでいて包丁で手を切ってしまったこともあります」と、手指の第2関節あたりに残った傷跡を見せてくれた。トイレに行くにも、いったん制服を脱ぐのはもちろん、用を足した後は社員の目の前で、先述したメトロノーム手洗いをしなくてはならない。しかも普通のハンドソープと殺菌消毒剤入りのハンドソープを使っての2回の手洗いが必須。時間を取られるので、仕事中はトイレを我慢しがちだという。店舗によっては、食中毒を防ぐため、生ガキを食べることを禁じられることもある。
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