米国のシンクタンクは、「権力者」だった 日本人は"研究所"の実態を知らない

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塩野:日本でいえば厚労省の事務次官が、チームごと一旦来て、もう1回戻るみたいなことですね。

佐藤:ええ、日本ではなかなかないと思います。今のブルッキングスの所長はタルボットというクリントン政権下で国務副長官を務めた人ですが、彼は誰かが政権に戻っていくと、その報告をメールで送ってきてくれる。そのとき「ちょっとさみしいことだ」と書く一方で、「とても誇らしい」とも書いています。ブルッキングスが人材の宝庫であり、現政権にそういう形で貢献できるのはすばらしいことだという考えです。

逆のパターンもあります。最近ではFRB(連邦準備制度)のトップだったバーナンキも来ています。私はまだ直接お目にかかったことはありませんが、ジーンズを履いて、普通にカフェテリアでごはんを食べているそうですよ。

塩野:バーナンキがジーンズを履いて?

佐藤:はい、普通に研究をしているそうです。彼がこの後どこに転身するかは、みんなかたずをのんで見守っていると思います。

シンクタンクは「研究ができる広告代理店」

「権力者たちが入ってくるシンクタンク。いったい何をしているのですか?」

塩野:そんな権力者たちが入ってくるシンクタンクって、いったい何をしているんですか?

佐藤:私も入るまではよくわからなかったんですが、ブルッキングスを含めた米国のシンクタンクがやっているのは、「研究ができる広告代理店業」だと思います。イギリスのシンクタンクであるチャタムハウス(王立国際問題研究所)などは、「研究ができる政治サロン・コーディネーター」。これが私のイメージです。この2つの違いは、情報を伝播させるところまでコミットするのかどうかの違いで、ブルッキングスはそこまでコミットしていると思います。広告代理店というと、日本のイメージだと、政治家を呼んでどうこうというイメージはあまりありませんよね。しかしブルッキングスは政治の要職にある人や、官僚、企業の方、あるいは研究者でも選ばれた人を呼んできて、フォーラムを開き、政策アピールをさまざまな媒体に載せて届けていく。

塩野:そうすると、シンクタンクはいったい誰に雇われているんでしょう。収入源はどこにあるんですか。

佐藤:それはすごくいい視点ですね。ブルッキングスのアニュアルレポート(年次報告書)によると、収入源の30%ぐらいはドネーションです。

塩野:寄付ですね。

佐藤:はい。60%は政府部門やチャリティにグラント(補助金)を取りに行っています。これは競争的資金と言われている通り、ほかのシンクタンクとの奪い合いです。残り10%はそれ以外。

ブルッキングスの3つのモットーの中に「インディペンデント」ということがありますが、どうやって中立性を保ちながら研究をするかは永遠の課題でしょうね。

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