佐藤:米国の場合は日本と違って、「新しいアイデアで現状を打開しよう、失敗したらもう1回やり直せばいい」という発想がすごく強い。日本では制度を変えること自体に強いアレルギーがありますが、米国では真っ先に「ダメなものをそのままにしておくのはよくないから変えよう」となる。実際にはそれで失敗することもいっぱいあるんですけどね。そこで暗躍というと言葉は悪いですけど、活躍しているのがシンクタンクなんだと思います。
塩野:日本でそれに当たるものはいっさいないわけですか。
佐藤:ここまでの機能を果たしているものはないと思いますよ。
日本は、シンクタンクでないところこそ機能するはず
塩野:実際、日本の何とか総研のようなところは、霞ヶ関の官僚の調査業務を委託されているにすぎませんよね。政策立案をするところまではとてもいかない。
佐藤:私自身は、日本でいうシンクタンクではないところこそ、ブルッキングスがしているようなことを、ちゃんと回すことができるんじゃないかなと思っているんです。
塩野:そうですね。直接的に政府からおカネをもらってしまうと、けっこう制約ができるから、もらわずに協力するとか。
佐藤:われわれも政府サイドからおカネをもらいすぎると、そちら側に取り込まれてしまうという危険はいつも意識しています。ただ、政府に取り込まれていないひとつの例として、ブルッキングスで象徴的に語られるエピソードがあります。去年、米国で財政予算が通らなくて、政府機関が一時シャットダウンしたことがありましたよね。
塩野:「財政の壁(Fiscal cliff)」問題のときですね。
佐藤:ワシントンD.C.にあるいくつかのシンクタンクは、普段は政府機関と同時に休みをとるというポリシーを持っていまして、たとえば大雪が降って政府機関が閉まると、シンクタンクも一緒に閉まるんです。それくらいベッタリなのかな、と思っていたら、あるときその「財政の壁」問題を受けて、ブルッキングスのテッド・ゲイヤーという有名人らが「この問題はもう政府には解決できないから、ブルッキングスが解決してやる」と言ってフィスカル・ポリシー(補整的財政政策)のセンターを立ち上げたんです。「政府に任せておいてもダメだ」と思ったら、自分たちでやっちゃう。全然、政府とベッタリじゃないんです。
塩野:政府任せにしない気風は、市民の間でも強く感じますね。米国の大学に行くと、ほとんどの建物が寄付で建てられていて、その建物に全部個人名が付いているでしょう。あれは「政府に税金を使われるぐらいなら自分で使い先を選ぶ」というお金持ちがたくさんいるからですよね。
佐藤:それでいうと、今私たちがいるこの東大の建物も、イトーヨーカドーの創始者の伊藤雅俊夫妻の寄付によるものですよ。「伊藤国際学術研究センター」という名前がついています。
塩野:その点は日本も少し米国に近づいているのかもしれませんね。ではこの続きは後編で伺います。
(構成:長山清子、撮影:今 祥雄)
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